DMZを越えて
(第三章)


統一展望台から見た建設中の東海線鉄道・道路


(2003・12・20 完成)


 さて、金剛山陸路観光に出発する統一展望台に着きました。統一展望台下の駐車場隣には、雪峰号が出発する束草の現代ターミナルに似た建物がありました。どうもこの建物で韓国の出国手続きが行なわれる、出入国事務所のようです。また、統一展望台の駐車場には多くの観光バスが駐車しています。これから金剛山に行く観光客を乗せてきたバスもありましたし、これから金剛山帰りの客を乗せるバスもあったようでした。効率がよい場合、統一展望台まで金剛山行きの客を乗せて、同じバスが2日前に金剛山へ向けて出発し、今日金剛山観光から帰る客を乗せて帰ることもあるようでした。
 ここまで来て、のりまき・ふとまきは考えてしまいました。どうして金剛山コンドミニアムから早く統一展望台に行きたかったのか?それは統一展望台まで上がる時間を確保したかったからなのです。ここの統一展望台は駐車場からかなり階段を登った場所にあって、これから韓国の出国手続きを行なう私たちが、統一展望台まで登る時間が確保できるかどうか微妙だったのです。まず現代の係員を捜して、時間があるかどうか質問しようと思ったのですが、こんな時に限って係員が全くつかまりません……日本に帰国してから知ったのですが、実のところこの日は南北対話の一環として束草で鉄道・道路実務接触を行なう関係で、金剛山観光からの帰りの客とともに、北朝鮮からのお客さんをお迎えすることになっていたのでした。どうも現代の社員たちは、通常の業務プラス北朝鮮からのお客さんを迎える準備にも追われていて、そのために現代の係員がなかなかつかまらなかったようでした。
 韓国人の皆さんは、多くは出国手続きが行なわれる建物に入って、列をなして手続きを待っているようでした。そんな時、そういえば“リムジンバス”は20分後に出発する便もあったことを思い出しました。それを考えると10分間で展望台まで往復すれば何とかなります。のりまき・ふとまきは思い切って統一展望台まで駆け上がってみることにしました。

 統一展望台は、急いで登るとかなりきついです!しかも大荷物を抱えて登るわけです!時間制限がある中、息をゼエゼエ言わせながら上ります。登りきると目の前に前回(2001年11月)とは大きく違った、南北間で大規模な工事が行なわれている光景が目に入ってきます。地形や工事状況をゆっくりと確認できる時間が持てませんでしたが、これから眼下に見える、工事中の道のように見えるあたりを通って北朝鮮に向かうことが実感できました。
 早々に展望台を降り、出入国管理事務所のところまで戻ります。急いで戻ったのはいいのですが、なかなか出国手続きが始まりません……そのうち、立派な背広を着た一団が出入国事務所から出てきます。中には肩をそびやかすように歩く男の姿もありました。どうもこの一団が鉄道・道路実務接触の北朝鮮側参加者だったようなのですが、そのときはそんなことはおよそ見当もつかず、ただ『なんだか偉そうな団体だなあ〜』といった感想しか持ちませんでした。
 偉そうな団体が通過してから後、大荷物を抱えた金剛山観光帰りの皆さんが、出入国管理事務所からぞろぞろとあらわれ出しました。今回の経験上、金剛山観光帰りの観光客の手続きが終わらないと金剛山へ向かう観光客の手続きが開始されることはないので、金剛山から戻ってきた観光客が出入国管理事務所から出て来始める頃までは統一展望台見学が出来そうです。


統一展望台駐車場に出来た、出入国管理事務所入り口とふとまき
なお建物には、『臨時南北出入管理連絡事務所』と書かれている


 そんな中、西欧人たち3人組が金剛山観光帰りの人を掴まえてインタビューを始めました。テレビカメラの機材には『BBC』の文字が見えました。どうやらイギリスBBC放送のスタッフのようです。金剛山へ行っていったいどんな番組を作るのでしょう??インタビューの様子を見ていると、3人組のうち西欧人(BBCならばイギリス人)がインタビューをして、韓国の人が通訳をして、もう一人の東洋系の人がカメラを回す役回りのようでした。東洋系のカメラマンは何となく日本にもいそうな感じの人だったので、のりまき・ふとまきとも最初は『日本の人かな?』とも思っていました。
 そんなBBCの三人組に、今回の金剛山陸路観光に参加する、20代半ばくらいの男性3人組みが積極的に声をかけていました。BBCの3人組と若者グループ3人組は結構話が弾んでいるようでした。

 やがて金剛山観光帰りの皆さんの手続きが終了して、今度はこれから金剛山観光に向かう私たちの手続きが始まります。今回の陸路観光は総勢約400名であったようで、最初は長蛇の列だったのですが、手続きは比較的順調で、列はどんどん短くなります。
 のりまき・ふとまきは何となく全体の最後に手続きをするような形になってしまいました。のりまきの手続きは比較的簡単に済んだのですが、ふとまきの方がもめました。これはふとまきのパスポートが旧姓の時に作られたもので、写真のあるページの記述と実際の名前が異なっていることから起こったトラブルでした。今回、手配を依頼した旅行会社ではふとまきの旧姓で全ての手続きを進め、金剛山の観光証なども旧姓で作られてしまっていたのです。このトラブルは前回の時にもありましたが、今回の解決方法は違いました。係員はふとまきのパスポートと金剛山観光の観光証を持っていって、私たちは数分間待たされました。係員たちは奥にある事務所で相談をしていたようですが、結論は『このまま行ってよい』。ということになりました。どうも北朝鮮の入国管理官は、ふとまきのパスポートの名前と署名がずれてしまっていることまで気がつかないだろうという判断だったようです。
 なんだかよくわからないのですが、とにかく韓国側の手続きは終了して出入国管理事務所を出ると、そこには金剛山観光バスが並んでいました。行きのバスは全部で15台でした。バスの運転手さんの中には初回・二回目ともにお世話になった、金さんの姿も見つけることが出来ました。

 とにかくのりまき・ふとまきが最後に手続きを済ませたわけですから、あとの金剛山陸路観光参加者は全員バスに乗り込んでいます……のりまき・ふとまきはミス・キムに教えられたとおり、急いでフロントガラスに『マー2』と記されたバスに飛び乗ります。バスには約30人くらいの人が乗っていました。一見すると家族連れが多そうで、団体客は少なそうでした。
 私たちがバスに飛び乗ってもすぐにはバスは出発しませんでした。約2〜3分たってから、先導車、続いて先頭のバスが動き出しました。バスは次々と出発し、やがてバスは一列の長い車列を作っていきます。そしていよいよ私たちの乗ったバスも出発します。出発していくバスの車列に向かって、現代の社員たちが手を振ってお見送りをします。社員の中にはミス・キムの姿もありました。


東海線臨時道路の韓国側出発地点
ここから金剛山陸路観光がスタートする


 さて、いよいよDMZ(非武装地帯)を越えて北朝鮮に向かいます。私たちのバスが出発した時刻は午後4時15分頃でした。冬の夕日はもう西の方に傾きだしていますが、空はすっきりと晴れわたっています。バスは出発後まもなくまず坂を下りだし、それから坂を登り返したところでゲートをくぐります。ゲートの少し先のあたりで頭上にネットが張られている場所がありました。どうやら南北を繋ぐ鉄道(道路?)の高架工事が頭上で行なわれているため、落下物よけのネットが張られているようです。周囲は既に木の葉が落ちた広葉樹が茂り、水溜りがあちこちにあって水はけの悪そうな場所でした。
 バスが出発して少し落ち着いたところで、今回のガイドさんが挨拶を始めました。今回のガイドさんは細面の若い女性で、目鼻立ちのくっきりとした美人です。ガイドさんが話す言葉は全てが韓国語なので、のりまき・ふとまきともいつもはほとんど理解できないのですが、「私は康といいます…」との自己紹介の後に、「今回は皆さん色々なところから金剛山に来られました。ソウル・忠清・全羅・慶尚……」というような話を始めたことはなんとなくわかりました。するとバス内から、「済州からも来ました!!」と元気な声が上がります。済州という声を聞き、バスの中から拍手があがります。それから康さんは「そして日本からも来られました!」と、私たちのことを紹介します。バス内の人々は皆、我々2人に注目です。そしてまたまた拍手であります(^o^)。

 やがて道はまた登りとなり、すぐにまた下りにかかります。金剛山観光で使われている南北間の臨時道路の韓国側はかなりアップダウンが多い道路です。やがて道はかなり急な登りとなります。登りきったところで、進行方向右側に入っていく道がありました。どうも右側を行くと小高い山の山頂の方に向かい、そこには韓国軍の監視所があるようでした。また、ここの場所には韓国軍が警備をしていて、バスの車列に向かって敬礼をしていました。
 そこから道は下りにかかります。ここまでの道路は舗装されていましたが、ここから先は少しの間未舗装部分と舗装部分が交互に現れた後、最終的に未舗装となります。未舗装の道はたぶんローラーで固めてあるそれなりにしっかりとした感じの道でしたが、バスが走ると砂埃が舞い上がります。
 下り坂が終わったところで三重の頑丈な鉄条網にぶつかります。この鉄条網、韓国側から板門店に行く際に見かけるものと同じようなものです。道はしばらく鉄条網に沿って海のほうへと向かっていきます。そして、道は90度曲がって鉄条網を越えます。韓国側三重鉄条網を越えたのが午後4時28分頃でした。
 鉄条網を越えると、進行方向左手に鉄道の路盤が見えてきます。路盤は真新しく、かなりしっかりしたもののように見えます。このあたりの道の両脇は、一定間隔で銃を構えた韓国軍兵士が数名ずつ、塹壕から北側を睨んでいます。やがて道路脇に『軍事境界線まであと200メートル』と書かれた標識が見えてきました。いよいよ韓国と北朝鮮の間の軍事境界線(MDL)です。バス内全体に緊張感が高まりつつあるのを感じます。気がつくと鉄道の線路が敷設されています。どうも『軍事境界線まであと200メートル』と書かれた標識の前後から線路が敷かれているようです。

 まもなく道は小さな橋を渡ります。その橋の北側たもとに朝鮮戦争休戦後まもなく建てられた、プラカードくらいの大きさの軍事境界線を示す標識が立っていました。鉄製の標識はもうすっかり錆び付いていて、50年あまりの風雪を感じさせるものでした。軍事境界線通過は午後4時31分頃でした。
 軍事境界線を越えたということは、北朝鮮に入ったということです。あっけなくはありましたが、目の前にカーキ色の軍服を着て、同じ色の毛皮の帽子を着用した北朝鮮の兵士の姿が飛び込んでくると、これまでの海路からの金剛山観光とは違い、『北朝鮮に入ったんだ!』と、強烈に意識させられます。約30名のバスの乗客はみんな景色にクギ付けで、居眠りをしている人なんぞ誰もいません。
 軍事境界線を越えた直後、午後4時32分頃に今度は北朝鮮側の錆びた鉄製の門を越えます。門の両脇には鉄条網が張られていました。鉄条網は二重にはなっていて、高圧電流も流れているようでしたが、韓国側の鉄条網と比較すると、高さも低く随分と貧弱な感じがします。
 門をくぐると、道はまもなく進行方向左側にカーブを切ります。カーブを切り終わると、目の前に湖と形良き岩山が見えてきました。鑑湖(カムホ)と九仙峰(クソンボン)です。鑑湖は広い葦原の中に湖面が見えるような感じで、湖というよりも大きな池といった雰囲気でした。葦原や湖面には時折白鷺が飛んでいました。そして鑑湖の先には盆栽に置かれる岩を思わせる九仙峰の岩山が見え、なかなかの景色です。この一帯は南北の境界がこのあたりを走ることになる以前は海金剛の一部とされていたのですが、さすが天下の金剛山の名をはずかしめない絶景です。また九仙峰のふもとあたりにはぐるりと鉄条網が張られていることに気づきました。
 道路には時々北朝鮮の兵士が一人ないし数人で赤旗を持ちながら立っています。美しい景色と見慣れない北朝鮮兵士……バスの乗客は皆、窓にかじりつくように景色を見ています。

 鑑湖を過ぎると道はやや登りにかかります。そしてまた二重の鉄条網をくぐります。先ほどの鉄条網と同じような感じですが、今回は鉄製の門はありませんでした。ただ、線路が敷設されているのはここまでで、線路の終点場所にはしっかりと柵が作られていました。
 二回目の鉄条網を過ぎると、また目新しい光景が現れました。目の前には荒涼たる岩山が広がり、その中で大勢の北朝鮮労働者が働いているのです。岩山には木がほとんど生えておらず、本当に岩と砂ばかりの景色です。西部劇などで見かける光景に大変よく似ていて、ここが朝鮮半島であることを思わず忘れてしまう、どこかの砂漠に迷い込んだかのような場所でした。
 そんな場所で働いている北朝鮮労働者には、紺色のトレーナー風のものを着ている人たち、水色の薄い長袖Tシャツ風のいでたちの人たち、カーキ色の軍服姿の人たちがいました。トレーナー風、Tシャツ風のものを着ている人たちの中には、真新しい白いヘルメットを着用している人も多かったです。カーキ色の軍服姿の人たちは、どちらかというと他の労働者たちを監督するような仕事をしているようでした。トレーナー、Tシャツ、白ヘルメットは韓国側から支給されたもののように感じました。また重機の姿もありましたが、韓国から借りているもののようで、『現代建設』の文字が見えます。水色のTシャツは特に薄手のもののようで、冬の夕方に薄手のTシャツ一枚で作業をしている人たちは、本当に寒そうに見えます。

 道が下りにかかると、進行方向右手に小さな湖が見えてきました。場所的には九仙峰の北西側のふもとにあたります。ここでバス列は二列になって停車をします。『何が始まるのだろう??』と思っていると、先のほうから北朝鮮兵士たちがやってきて、バスに乗り込みだしたようです。どうやらここで検問があるようです。北朝鮮兵士は手分けして検問を行なっていきます。検問はバスの中ばかりではなく、バス下の荷物室を運転手に開けさせて、荷物も調べているようです。ただし検問時間は極めて短い感じで、すぐに次のバスへ移っていきます。やがて私たちのバスにも北朝鮮兵士が乗り込んできました。バスに乗り込んだ北朝鮮兵士は1名で、一応バスの奧の方まで入って乗客を確認しましたが、一瞥程度のものでそんなに厳しい検問ではありません。北朝鮮兵士は1分もしないうちにバスから降りて、次にバスの運転手にバス下の荷物室を開けさせて荷物の確認をします。これもまた一瞥程度で本当に確認程度のものでした。15台のバス全部の検問が終了すると、北朝鮮兵士は検問を行なった5人が列を作り、手と足を振り上げ行進しながら帰っていきます。検問開始が4時37分頃、終了が4時44分頃で、北朝鮮兵士たちは15台のバスを7分で見てまわったことになります。
 検問の行なわれた湖畔には広場のような場所があって、そこには束草港で見かけたものと同じものと思われる、黒い木製の枕木と白いコンクリート製の枕木がかなりの数、保管されていました。また、このあたりの鉄道工事現場には本当に大勢の人が働いていました。100人以上いたのではないでしょうか??ただ、仕事をせずに突っ立っているだけのように見える人も多く、勤労意欲は必ずしも高くないようにも感じました。もちろん世の常として、ひとり黙々とスコップを振るっている働き者の姿もありましたが……そしてこれは金剛山地区で見かけた作業員全体にいえることなのですが、中年の作業員もいるにはいましたが、多くの作業員はまだ若く、人によっては中学生くらいにしか見えない人もいました。
 また、このあたりは特に砂質の脆い地盤のようで、せっかく鉄道の路盤を盛り上げても、後から後から崩れてきている様子で、工事は少々難航しているように見えました。

 検問後、バスはほどなく出発します。二列の駐車状況からまた一列縦隊に戻り、バスは進んでいきます。バスの右手にはかつて田んぼがあったようで、あぜ道の跡が残っていました。そして臨時道路の両脇や左手の鉄道建設現場には、あちらこちらで数人〜数十人と作業員が集まっていて、なにやら作業を行なっています。やはり突っ立っているだけにしか見えない人もいましたが、道路脇になにやら溝のようなものを掘っている現場は、比較的多くの人が作業をしていました。溝は普通にスコップで掘っている場合もあったのですが、三人組みになって、両脇の人がスコップに結わえ付けられた紐を持ち、真ん中の人がスコップを動かすといった形で作業が行なわれている場所も多かったです。あの作業方式にはいったいどんな意味があるのでしょうか?この臨時道路脇の溝掘り作業は、断続的に臨時道路が終わる場所まで行なわれていました。
 やがてまた道はゆるい登りにかかります。登りきったところで、これまで常に進行方向左側にあった東海線の鉄道工事現場が、道の下をくぐり、交差をします。建設中の鉄道は交差をしてからまっすぐ北進し、一度視界から消えます。道はまたゆるやかに下り、少し広い平野のような場所に出ました。道の左には小川が流れ、周囲の多くは田んぼのようでした。このあたりになって、ようやく兵士と作業員以外の北朝鮮の人たちの姿を見ることができました。トタン葺き屋根の作業場のようなところで、十数人の人たちが集まってなにやら藁打ちのような作業をしていた場所もありました。
 それから道は南江という少し大きな川のほとりに出ます。南江の反対岸には、旧邑里というその昔、高城郡の中心地であった集落が見えてきました。洪水の害を防ぐためか、旧邑里は高いコンクリート製の堤防で守られていました。もうすっかり西に傾いた日を受けて、古びて黒っぽいコンクリート堤防と旧邑里の家並みが静かに沈んでいるようでした。
 旧邑里を見送った後、臨時道路は南江にかかる真新しい橋を渡ります。どうもこの橋は、最近金剛山陸路観光などのために造られた橋のようです。今回の金剛山陸路観光で気づいたのですが、南江にしても温井里付近を流れる神渓川や温井川にしても、これまでの北朝鮮時代、どうもかなり上流の方まで橋が架けられていなかったようなのです。これは日本の江戸時代のように、敵(韓国)が攻めて来にくいように大きな川に橋を架けないようにしていたのでしょうか?

 のりまきはこれから先すぐにでも神渓川を渡り、三日浦・海金剛観光で使われている『金剛山観光道路』に合流するのかと思いましたが、臨時道路は川を渡ることなく、神渓川の南岸を進み続けます。道は広い場所を進んでいきます。道路は舗装されていませんが、一応ローラーか何かで固めてあるようで、それなりにしっかりとした道路でした。臨時道路はもともとあった道路を簡単に整備し直したものなのかもしれません。また、道路脇に金網が張られていない点がこれまでの金剛山観光道路との大きな違いです。道の脇では相変わらずところどころで色のトレーナー風の作業着や水色の薄い長袖Tシャツ風の作業着を着た作業員たちが、主に道路脇で溝を掘る作業を行なっています。また、川の反対側では鉄道工事と思われる工事が、かなり大勢の作業員と韓国側が提供した重機とで進められている光景が見えました。ここでも作業員の中には白いヘルメットをかぶっている人も見かけました。

 やがて道の近くに集落が見えてきました。集落の建物はほとんど全て伝統的な朝鮮建築で、瓦葺の平屋からは夕暮れ時らしく、白い煙が立ち上っていました。無風状態の冬の朝夕に時々見られるように、家々から登る煙は上空まであがることなく中空で拡散して、一帯が薄暮の中、白い靄に包まれた感じになっていました。
 バスはやがてかなり大きな集落の脇を通りました。集落と臨時道路との間には、真新しい白くて高いコンクリート壁が作られていましたが、建ち並ぶ瓦葺の平屋からは、やはり煙突から白い煙が上がっている様子が見えました。薄暮の中、薄い靄の中に立ち並ぶ伝統的な朝鮮家屋から夕ご飯時の煙が上る……まさに墨絵の世界で、タイムスリップをしたかのような錯覚を覚えました。
 しかし道路には北朝鮮の監視兵が赤旗を持ち、一定間隔で立っています……そしてこの集落近くの神渓川を、冬の夕暮れにもかかわらず、北朝鮮の人たちは徒歩で渡っています……道の脇では相変わらずところどころで薄い水色の長袖Tシャツ風の作業着を着た作業員たちが作業を行なっています……本当、見ているこちらの方も寒くなってくるような景色です。DMZから離れても、バスの車窓からの光景は退屈させられることがありません。
 バスはやがてもうひとつ集落の近くを通りました。この集落の広場のような場所には材木かなにか、木の束のようなものがたくさん集められていました。いったい何に使うのでしょう?集落を通りすぎると、まもなくまた真新しい橋を渡りました。この橋は九竜淵方面から流れる神渓川と、万物相・温井里方面から流れてくる温井川との合流地点近くの神渓川を渡っていました。そしてこの川の合流地点付近でも、北朝鮮の人たちが川を徒歩で渡っています……お母さんが子どもを背中におんぶして、川を渡る姿もありました……そんな光景を見て、ふとまきは思わず「寒そう……」とつぶやきました。

 神渓川に架かる橋を渡ってまもなく、バスの進行方向左手の丘で、数十人の紺色のトレーナー風作業着姿の北朝鮮作業員と、韓国側の重機が共同作業をしている場所がありました。北朝鮮の作業員の中には、例によって真新しい白いヘルメットをかぶっている人もいました。作業内容は丘のスロープにあるでこぼこを削り、滑らかにするような作業です。どうも2003年12月中(後のニュースによると31日)にオープン予定とされている金剛山雪遊び場の工事のようでした。ゲレンデになると思われる場所の傾斜はゆるやかでまた長さも短く、とりあえずリフトも作られないようなので、そり遊びと簡単なスキーが楽しめる場所になると思われます。

 まもなく私たちの目の前に、これまで2回の金剛山旅行で見慣れた『金剛山生水』の建物が見えてきました。その先には温井閣と同じ敷地にある金剛山文化会館のドームや、奧の方には金剛山旅館の姿も見えます。金剛山生水の建物のそばで、道はようやくこれまでの金剛山観光道路に合流しました。
 バスは私たち金剛山観光客の北朝鮮入国手続きを行なうために、高城(長箭)港にある北朝鮮の出入国管理事務所に向かいます。日は既に金剛山の向こうに沈み、温井里は薄暮の中に沈んでいました。また温井里と反対側の車窓からは金剛山青年駅が見えるのですが、駅の周辺の空き地には、束草港で目撃した黒い木製と白いコンクリート製の枕木が大量に置かれていることに気づきました。
 高城(長箭)湾沿いにバスが進み出し、いよいよ北朝鮮の出入国管理事務所が近づいてきた時に、道沿いに新しい建物が建設中であることに気づきました。建物は二軒作られているようで、一軒は韓国の港や海沿いでなどよく見かける『海鮮料理店』のようでした。もう一軒もなにかの食堂のようです。完成すると二軒とも韓国側が経営する食堂になるのだと思われます。
 いよいよ北朝鮮の出入国管理事務所とホテル海金剛が近づいてきた時、ホテル前の空き地でも十数件の新しい建物の建設がされているのを見ました。こちらは金剛山の新たな宿泊施設のようで、日本に帰国して調べてみたところ、完成した暁にはペンション風の建物になるそうです。
 午後5時12分頃、バスは北朝鮮の出入国管理事務所前に停車しました。韓国側出入国管理事務所を出発してからわずか1時間たらずなのに、車窓からは本当に色々なものが見え、DMZ(非武装地帯)を陸路で越える北朝鮮入国は、もう『おなかいっぱい』といった感じでした!!


よろしかったら↓のページも参考にしてみて下さい。

2003年12月の非武装地帯・南北間連結鉄道の状況(地図編1)

2003年12月の非武装地帯・南北間連結鉄道の状況(説明編1)

2003年12月の非武装地帯・南北間連結鉄道の状況(地図編2)

2003年12月の非武装地帯・南北間連結鉄道の状況(説明編2)





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