DMZを越えて
(第二章)


金剛山陸路観光の出発手続きを行なう金剛山コンドミニアム

(2003・12・17 完成)


2003年12月2日(火)
 いよいよ金剛山陸路観光出発の日であります。朝起きてみると空はきれいに晴れていてまさに出発日和でしたが、二人とも胃の調子がいまいちで、どうも気持ちが乗ってきません。特にふとまきのお腹の調子が悪く、ふとまきは朝食を抜いての出発となりました。のりまきもパン一個とオレンジジュースを飲んだだけにしました。
 今日はまず金剛山陸路観光の受付会場がある『金剛山コンドミニアム』まで行って、ここでまず陸路観光に出発するのに必要な手続きをすることになります。金剛山コンドミニアムは2001年の初回の金剛山観光でも、統一展望台観光をした際にすぐそばを通ったので行き方は知っていましたが、なにぶん束草からもかなり距離があるので、少し早いかな……とも思いましたが、10時半に出発しました。
 1番の、韓国では“市内バス”と呼ばれる路線バスに乗って、終点まで行けば金剛山コンドミニアムのすぐ近くまで行きます。要らない荷物は宿に預かってもらうことが出来ましたが、金剛山の防寒対策などを考えた大荷物を背負い、のりまき・ふとまきは最寄の市内バス停(日本での路線バスのバス停と同じ感じ)に向かいました。
 待つこと約10分、1番のバスがやってきました。運転手さんに『統一展望台』と行き先を告げると、『乗れ』というジェスチャーです。のりまき・ふとまきは料金箱にウォン札を何枚か入れて、おつりを貰います。
 バスは快調に北上します。考えてみれば北上すると最後には現在事実上行き止りのDMZにぶつかるわけで、渋滞など考えにくいので快適なバス旅も当然なのかもしれません。海は青く、山もくっきりと見え、天気が良い上に風も比較的弱く、本当におだやかな良い天気です。

 バスは1時間あまりで終点に着きました。終点の少し先の方に金剛山コンドミニアムが見えます。今回金剛山陸路観光の手配をお願いした旅行会社から貰っていた観光日程表では、観光の受付開始は午後1時半となっていたので、やはり早く着きすぎたようです。さすがにまだ金剛山観光客らしい人たちの姿は見えません。
 のりまき・ふとまきはとりあえずコンドミニアムの中に入ってみました。入り口正面にはロビーがあって、ロビーの近くには『金剛山陸路観光の受付は地下です』。と書かれていると思われる張り紙がありました。のりまき・ふとまきはとりあえず地下に降りてみることにしました。
 地下に降りてみると、大きなフロアーのような一室が『金剛山陸路観光受付場所』として割り当てられていることがわかりました。しかし……なにぶんまだ12時前……会場には誰もいません。
 仕方がないので少し待ってみることにします。地下には売店もあったので、少々飲み物を買って、地下の長椅子に腰掛けていたら、見覚えのある人がやってきました。初回・二回目の金剛山でお世話になったミス・キムです!!
 「お久しぶりです……お元気ですか?」どちらからともなく、そんな挨拶を交わします。「今度の金剛山はキムさんと一緒ですか?」のりまきがそう尋ねてみます。
 「いいえ、今回は違います」。「では、鄭さんですか?」キムさんでなければ、二回目にお世話になった日本語堪能の鄭さんがガイドなのかななあ?と思い、そう聞いてみると……キムさんは「鄭さんですか……鄭さんは会社を辞めました」。と答えます。今年(2003年)になってからも、日本のテレビで鄭さんの姿を見かけていたので、きっと元気に金剛山観光のガイドをしているものだとばかり思っていたので、少々ショックです。
 「今回は別の人がガイドになります……受付は1時半からなので、それまで食事などしてはいかがですか?」ミス・キムはそう言うと仕事に戻っていきました。
 確かにここであと1時間半待ち続けていても面白くありません。隣に食堂があるので覗いてみると、メニューはしっかり韓国料理ばかりで、しかも『カルビタン』やら、『ピビンバ』などといった、のりまき・ふとまきの体調から考えると重たいメニューばかりです。
 結局、天気が良く、風も比較的穏やかなので、朝、食べることが出来なかったパンを外で食べることにしました。金剛山コンドミニアムの敷地内の椅子に腰掛け、海をのんびり眺めながらお昼ご飯です。ふとまきも昼はパンを少し食べることが出来ました。

 そんなこんなのうちに、金剛山へ向かうと思われる観光客が集まりだしました。多くの観光客は団体客のようで、大型観光バスが止まっては観光客がぞろぞろと降りてきます。
 「人も集まりだしたようだし、ひょっとしてそろそろ受付を始めるかな……」と思い、コンドミニアム内に戻ってみると、受付はまだ始まっておらず、到着した観光客の多くは昼食を取っています。なぜかほとんどの人が石焼ピビンバを頼んでいて、周囲にゴマ油の焦げる香ばしい香りが漂っていました。天候には恵まれているとはいえ、冬の海辺にずっといるのはやはり寒いです。のりまき・ふとまきは1階の喫茶店でお茶を飲みながら時間をつぶしました。
 1時10分過ぎ、周囲がずいぶんにぎやかになってきたので地下に降りてみると、受付を行なう部屋には多くの人が集まりだしていました。『もう受け付けやっているのかな?』と思い、周囲をきょろきょろ見廻しているとミス・キムがやってきました。
 「受付をしましょう。パスポート貸してください」。ミス・キムはそう言うと、私たちのパスポートを片手に、金剛山陸路観光の受付を始めました。やがてミス・キムは金剛山観光客必携の観光証・最近利用が開始された『金剛山観光カード』などが入った、金剛山観光客が首からぶら下げることになっているビニール製の透明なケースを持ってきました。今回の金剛山行きはこれまでお願いしたきた日本の旅行会社ではなく、束草のkuniさんの協力で韓国の旅行会社を通しての申し込みを行ないました。申し込み書のFAX・写真の郵送・韓国の銀行への旅行代金の振込みなどなど、初めて経験する手続きが多くて、ミス・キムが私たち夫婦の金剛山観光書類を持ってくるまで正直不安があったのですが、これで一安心、私たちは陸路で金剛山へ行けます!
 ミス・キムは観光証に書かれている内容と、パスポートをにらめっこして間違いがないかどうか確かめた上で、「はい、大丈夫です、携帯電話持っていますか?」。と、前回、前々回で聞かれたことと同じことを聞いてきます。
 「いいえ、日本に置いてきました」。というと、続いてミス・キムはビニールケースから金剛山観光カードを取り出し「このカードにお金を入れて、金剛山でカードを使うこともできます」。と、説明をします。金剛山観光カードの話は10月に金剛山陸路観光に行ったレトロ氏から事前に聞いていましたが、本当にキャッシュカードのようなカードです。「お金はあちらで入金できます」。と、ミス・キムは部屋の奥のほうを指差します。
 続いてミス・キムは私たちに陸路観光のバス乗車券を渡しました。「のりまき・ふとまきさんは、マ−2のバスに乗ることになります。バスはここから先の展望台から出発します、展望台まではシャトルバスがあります。時間は2時半と2時50分です。料金は1500ウォンで15分くらいかかります」。
 ミス・キムの説明はしっかりしていて、雰囲気にもぐっと落ち着きが感じられるようになって、約二年前、初めて出会った時を思い出してみても、『成長したな〜』と感じさせるものがありました。
 受付の手続きと説明をしてくれたミス・キムにお礼をして、金剛山観光カードにお金を預けるコーナーに行ってみます。ところが、窓口でドル紙幣を出しでみたのですが、金剛山観光カード入金係りの人は、「ドルではなく、ウォンを入金するのです」。という話をしてきます。思いがけない展開にまごついていると、係員が片言の英語で「金剛山はドルキャッシュも使えるので、ここでウォンを入金しなくても良いですよ」。と言います。どうも金剛山観光カードのキャッシュカード機能は、日常ウォンを使っている韓国人観光客向けのもののようです。もちろん日本人が韓国観光の途中で金剛山に行く場合、円からウォンに両替するだけで済むようになったわけで、ある意味便利になったといえるかもしれません。


金剛山コンドミニアム地下の、金剛山陸路観光受付会場

 結局金剛山コンドミニアムでの金剛山陸路観光の受け付け手続きは、1時半前に全て終了してしまいました。ぼうっと受付をみていると、欧米人男性がひとり、手続きを始めました。今回はどうも我々以外にも外国人の観光参加者がいるみたいです。欧米人には二人の東洋系の男性が一緒のようで、どうも3人組の旅行のようでした。手続きを終えた3人組は、まもなく私たちの目の前を通り過ぎていきました。首から下げている観光証を見ると、欧米人男性と一緒の2人の男性のうち、目の大きな浅黒い肌をした男性は、薄紫色の観光証を首から下げていました。韓国人の観光証はうぐいす色なのですぐに見分けがつきます。男性のうち一人は韓国人ですが、もうひとりも外国人のようでした。これまで2回の金剛山観光では、外国人は私たちだけの旅になりましたが、今回は2人の外国人がいるようです。
 それにしてもこれから1時間あまりすることがなくなりました。退屈したのりまき・ふとまきは、『統一展望台まで早く行くことが出来れば良いのに〜』と思い、のりまきが徒歩約7〜8分のところにある統一安保公園まで行ってみて、もっと早い時刻に統一展望台まで行くバスがないかどうか、見てくることにしました。
 午後に入り、風が少し出てきました……寒風の中、統一安保公園まで歩いて観光案内所で聞いてみると、次の統一展望台行きバスは2時40分になるとのことでした……これでは意味がないので、仕方なくまたとぼとぼとまた金剛山コンドミニアムに戻ります。
 金剛山コンドミニアム前はより多くの観光バスがやってきて、バスが列をなして止まっているようになりました。続々と団体が到着しているようです。どうも私たちのように公共交通機関を使ってここまでやって来た人は少ないようです。また、金剛山コンドミニアムまで車で来て、駐車場に車を置いて金剛山へ向かう人も少数ながらいるみたいでした。
 ふとまきのところに戻って「次のバスは2時40分だったよ〜」と話すと、「う〜ん、タクシーがないかどうか見てみない?」と言います。そこで金剛山コンドミニアム前をきょろきょろと見てみると、タクシーが一台止まっています。しかし肝心の運転手がいません。あたりを見廻して運転手を捜していると、老夫婦が二人、私たちににっこりと会釈をします。ふとまきも会釈をし返します。
 「あの夫婦、ロビーの長椅子のちょうど隣に座っていて、おばさんの方がのりまきを待っている間、色々話しかけてきたのだけど、途中で私が日本人であることがわかったみたい」。と言います。このご夫婦、これからの金剛山で何度となく出会うことになります。観光証によると旦那さんは朴さんという名前のようでしたので、朴夫婦と呼ぶことにします。
 ちょうどそんな時に、きれいな路線バスが目の前に現れました。バス脇の行き先案内を見ると、襄陽(ヤンヤン)空港から統一展望台行きのバスです。天の助けとばかりバスに飛び乗り、運転手さんに「トンイルチョンマンデ」と言うと、「乗れ」。と言ってきます。ああ、これで早く統一展望台まで行けるぞ!と思っていると、バスの運転手は私たちに「申告はしたのか?」と言ってきます。「金剛山観光に行くのです」。と話してみると、バスの運転手さんは「じゃあ、シャトルバスがあるじゃないか」。というなり、統一安保公園のところでバスをUターンさせ、金剛山コンドミニアムのところで私たちを降ろしてしまいます。結局またまた逆戻りです(-_-メ)
 金剛山陸路観光の帰りにわかったことなのですが、このバスは行きよりもむしろ統一展望台からの帰りに意味があって、金剛山観光帰りの観光客を襄陽(ヤンヤン)空港まで乗せることが目的のようなのですが、このときはそんなことはわかるはずもありません。がっかりしながらバスを降ろされたのりまき・ふとまきの姿を、朴夫婦がにこにこ笑いながら見ていました。

 しかたありません……リムジンバスを待つことにします。多くの団体客は手続きが終わるとまたバスに乗り込んで統一展望台へ向かっていきます。そうこうするうちに金剛山コンドミニアム前には、公共交通機関や自家用車で到着した人たちが集まりだしました。
 欧米人ら3人組は、金剛山コンドミニアムまで車で来たようで、車の中から荷物を出し始めました。荷物は相当な量があり、見るとテレビカメラまであります!どこかのテレビ局の取材なのでしょうか??
 結局2時40分近くになって、“リムジンバス”が到着しました。しかしこのリムジンバス、束草からここまで来たバスと全く同じ、いわゆる“市内バス”そのものです。正直びっくりしました。
 バスには公共交通機関や自家用車でここまで来た人たちが殺到しました。皆、これから金剛山観光に行くわけですから荷物が多いです。その上、欧米人ら3人組のテレビカメラ部隊まで乗り込んできたのでもう大変!バス内はスシ詰め満員です。その上に説明係と思われる男性が『バスに乗ってください、乗ってください!』といった感じでどんどんと人を乗せようとするので、バス内はもう身動き一つできない状態になってしまいました。


これがリムジンバス??単なる路線バスでしょ??びっくりです……

 約7〜8分後、バスは金剛山コンドミニアムを出発しました。景色なんて見ている余裕はありません。とにかく『早く統一展望台に着かないかな〜』と思ってしまいます。3時を少しまわった頃、バスは統一展望台前の駐車場に到着しました。本当、金剛山陸路観光の出発地に着くまでが一旅行になってしまいました!



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