内金剛遥かなり
(第十章)
平壌のボーリング場にあった、北朝鮮のプリクラ
今回の旅行に際し、のりまきは知人から『元山駅の写真を撮ってきてもらいたい』。と頼まれていました。ホテルから出発後、のりまきはまず、マイクロバスの車窓から元山駅の写真を撮りました。
元山駅とホーム
元山駅の写真を撮ると、もう睡魔が容赦なく襲ってきました(笑)。のりまきはさっそく睡眠時間に突入してしまいました。気が付くとマイクロバスは峠の上のようなところで、休憩に入ろうとしていました。なんでも平壌ー元山高速道路の最高地点だとかで、道路脇にあずまやが建っていました。
町からかなりの距離がありそうな峠の上なのですが、女性が大きな荷物を抱えて歩いている姿を見たのには驚きました。また、今回の旅行ではあちこちで見かけたのですが、この峠近くの山肌にも、段々畑が開かれていました。こういう光景を見ると確かに北朝鮮の食糧難を感じてしまうのですが、畑を作りやすそうな場所で空き地が広がっている場所も多くあり、北朝鮮の農業がどうなっているかは、ただ通り過ぎただけでは判断がつけられそうもありませんでした。
平壌ー元山高速道路の最高地点から見た、段々畑
相当上の方まで畑が作られていることがわかる
ところでこの峠での休憩直後、Sさんがいきなり悪寒を訴え始めました。どうも風邪をひいて熱を出したようです。訪朝経験豊富なSさんにとっても、やはり今回の旅行はかなりハードだったようでした。
峠での休憩後しばらく進むと、行きも休憩した新坪休憩所に着きました。この休憩所でふとまきはL課長に「日本では高台などの眺めの良いところにお墓を建てます。韓国に旅行に行ったときも、土葬だと思うのですけれどもよく高台にお墓が並んでいました。こちらに来てこれまでのドライブ中に、『そういえばお墓を見ないな〜』と思ったのですが、どうしているのですか?」と尋ねてみたところ。思いもかけぬ問いにL課長は半ば狼狽してしまい、「あ、お墓はありますよ」。と答えるのがやっとでした。そのやりとりを聞いていたE.Tさんはさっそく「ところでこちらは火葬なの?土葬なの??」と尋ねていました。この問いには、「火葬も土葬もありますよ」。と答えていました。
ふとまきは何の気なしに聞いたことなのですが、どうもこの北朝鮮でのお墓についての問いは、日本からの拉致被害者の“遺骨”が見つからない理由のひとつとして、『火葬』されたという北朝鮮の公式発表の真偽に関わる問題に思いがけなくも直結したようで、そのためにL課長は狼狽を見せたのだと思われます。それにしても北朝鮮ではどのようなお墓が作られているのでしょうか?
新坪休憩所を出発すると、一路平壌へと向かいます。車中でガイドのHさんはふとまきに向かって「ふとまきさんはなにか武道でもしていましたか?」と聞いてきました。「いいえ、でも砲丸投げをしていました」。と答えると、頷きながらも「ふとまきさんは柔道とか空手とかやっているように見えました」。と言います。Hさんはどうもふとまきの姿が格闘家に見えるようです(笑)。
話はやがて北朝鮮の大学進学と就職の話となりました。ガイドのHさんの話では、地方出身者でも優秀な人材は平壌の大学へ進学できるようです。また大学進学後の就職は基本的に国が本人の適性を判断して、配属先を決定しているようです。Hさんによれば、基本的に優秀な人材は平壌の大学に進学し、平壌で就職するようになっているようです。更に興味深かったのは、平壌で就職した優秀な地方出身者は、地方から父母を平壌に呼び寄せるのだといいます。束草のkuniさんは、韓国では大学は『ソウルの大学』でなければならないという根強い風潮があるとの話をしていましたが、どうやら北朝鮮にも全く同じような風潮があるようです。
そんな中Tさんが、道端でヒッチハイクを試みていた人民軍兵士が、私たちの乗ったマイクロバスに手を触れんばかりに近づいて、停めようとした場面を目撃しました。E.Tさんによれば、今回の旅行で朝鮮人民軍の統制が緩んでいることを感じたといいます。現在、金正日政権は『先軍政治』を唱え、軍事優先の体制をとっていますが、肝心の軍の統制が緩んでしまったら、今後いったいどうなってしまうのでしょうか?
やがてのりまきは再び眠りに落ちてしまいました。運転手さんを除く他の皆さんも、再び眠ってしまったようでした。のりまきが再び目を覚ますと、私たちの乗ったマイクロバスはもう平壌の手前まで来ていました。
ところで北朝鮮観光では少し珍しいことだと思うのですが、これから向かう平壌での予定がなかなか決まりませんでした。当初、ふとまきは北朝鮮名物のサーカス観覧の予定でしたが、『今日は祝日でやっていない』とのことで、サーカス観覧はお流れになってしまいました。しかし後からの説明では、『祝日で時間が合わなかった』となってしまいました。北朝鮮のガイドさんは彼らなりに一所懸命に仕事はするのですが、時々このようなその場しのぎとも思える説明をすることがありました。
他には射撃場やビアホールなど、候補がいくつかあげられたのですが、平壌に着いてからまず最初に、宿泊する羊角島ホテルにチェックインして、それから北朝鮮観光の大ベテラン、E.Tさんが訪朝のたび毎回行くという平壌駅に向かうことになりました。E.Tさんは訪朝のたびに北朝鮮人民用の入場口から平壌駅に入り、駅の係員に『丁重に外国人専用室』へと“誘導”される経験を繰り返していて、『今回はどのくらいの時間、人民用の入り口に滞在できるかな!?』と、楽しみにしていたのです。
ガイドのHさんは人民用の入り口に向かう際、ひとつ条件を出しました。人民用入り口内での写真撮影は遠慮して欲しいとのことでした。平壌駅外部の撮影などは特に問題ないとのことで、のりまきは平壌駅前に停まっていた、松葉杖を持った男が乗っているオート三輪とも電動車椅子ともつかぬ、謎の乗り物の写真撮影をすることが出来ました。
平壌駅前に停まっていた、オート三輪とも電動車椅子ともつかぬ謎の乗り物
この写真では見えませんが、車に乗っている男は松葉杖を持っていました
人民用の入り口では予想通り(?)さっそく女性係員が現れ、我々を丁重に外国人用の部屋へと案内します。人民用入り口の滞在時間は約1分でした(笑)。ところで女性係員はE.Tさんのことを良く知っているようで、『また来たのか?』といった顔をしていました。
平壌駅を退散してから、まず高麗ホテルそばのビアホールに向かったのですが祝日のせいか開いていません。Tさんはチュチェ思想塔のそばにあったような、北朝鮮の人民が利用するビアホールに行ってみたいと提案したのですが、この提案は受け入れられず、結局高麗ホテルの裏の方にある日本式の飲み屋のような場所で一杯ひっかけてから、アヒル肉専門店で夕食とあいなりました。
体調を崩してしまったSさんとともに、のりまきも下痢が始まっていて、少し『焼き肉』は心配だったのですが、アヒルの焼き肉は脂が多い割にくどくなく、意外と食べられました。それにしてもTさんとふとまきは元気です!特にふとまきはたくさん食べていました♪
焼き肉終了後はSさんたっての希望により、ボーリング場に行くこととなりました。ちなみにSさんはマイボールも持っているボーリング好きで、訪朝前に『平壌でボーリングをやってくる!』と、友人たちに宣言して来たといいます。
アヒル焼き肉店からボーリング場に向かう道路は、平壌の東側を走る、北朝鮮観光ではほとんど使わない道路を進みました。訪朝歴10数回のベテラン、Tさんが「この道は初めて通る」。と言うと、平壌の西部に住んでいるというL課長も、「このあたりにはほとんど来たことがない」。と言っていました。
私たちの乗ったマイクロバスはボーリング場に着きました。日本のお古のボーリング場を総連関連企業が寄付したとかで、コンピューターで得点が自動的に出てくるボーリング場であるのには驚きました。ただ、設備は随分古くなっていて、ボールの傷も目立っていました。ボーリング場の客の入りはあまり良くありませんでしたが、3〜4組はボーリングをやっていました。
さあ、平壌でのボーリングにチャレンジです!運転手さんを除く6名がボーリングに参加します。レーンの状態が悪いのか、ボールが思いもかけぬ方向に曲がってしまい、Sさんを始め皆が悪戦苦闘する中、ふとまきのみが調子良く得点を重ね、他の5人を引き離していきます。
ところで、私たちの様子をボーリング場の若い職員が後から見守っていました。この職員さんは試合終了直後、トップだったふとまきに拍手をしてくれました。そしてボーリング場から帰る前に、E.Tさんがこの職員さんに「朝鮮から日本にボーリング留学をしたのは、あなたですか?」と聞いてみると、「はい」。と答えていました。それにしてもこの時までこの職員さんはひとことも日本語を話しませんでした。『日本人が来てもあまり話しかけるな!』という教育でもされているのでしょうか?
ボーリング場の入り口にはなんと『プリクラ』がありました!フレームにはチュチェ思想塔があるなど、確かに平壌バージョンです♪もちろん私たちはみんな、プリクラをしました(笑)。そして私たちのプリクラ終了後、その様子を興味深く見続けていた女の子が、さっそくプリクラを始めていました。どこでも子どもは好奇心旺盛なのですね〜〜
プリクラ終了後、私たちはホテルへと戻りました。体調を崩したSさんも、念願のボーリングと思いがけないプリクラが効いたのでしょうか?少し元気になってきました。ホテルに着いて荷物を置くと、のりまき・ふとまきとE.Tさんは最上階の展望レストランでお茶をしながら今回の“濃い”旅行を振り返りました。のりまき・ふとまきはお茶の後はすぐに部屋に戻ってお風呂にしたのですが、E.Tさんは一階でSさんやガイドさんたちとともに、更に一杯ひっかけたとのことでした。ちなみに一階でのガイドさんたちとの話も、結構盛り上がったそうです。
お風呂の後は例によってバタンキューです。明日はいよいよ北朝鮮最終日です!
内金剛遥かなり(第九章)に戻る
内金剛遥かなり(序章/前章)へ戻る
蓬莱の巻に戻る
金剛一万二千峰へ戻る
のりまき・ふとまきホームへ戻る
内金剛遥かなり(第十一章)に戻る