雪峰(ソルボン)の夢(6)


九竜台の上、思わず足がすくんでしまう絶壁の上から撮影
滝壷が宝石の珠のように連なった上八潭です
まさに“凍れる宝石”を見る思いがしました。絶景中の絶景です!!


さて、玉流の滝を過ぎると坂道が少し急になってきます。ミス・キムが私たちに時々『うさぎ』など、遠くに見える動物の名前がついた岩の説明をしてくれます。川はところどころエメラルドグリーン色をした美しい淵をつくっていますが、寒さが厳しいためか凍っている場所が目立つようになってきました。そしていつのまにかミス・キム、ミス・イーや私たちと同行する形になった飴売りの金さんが、私たちに色々話しかけてきます。ほとんど日本語はできないので、ジェスチャー中心の会話ですが「年はいくつですか?」と聞かれたり、「私は日本に行ってみたいです」などと話していました。そして金さんによれば「2週間くらい前、金剛山に日本人が一人で来ていた」。ということです。人のことなんて言えないのは承知しておりますが、2週間くらい前にも我々夫婦と同じような物好きがいたようです(^o^)。ちなみに飴売り金さんは39歳だそうです。どうやら韓国の食品会社から金剛山に単身赴任をしているみたいです。
やがて飛鳳の滝・舞鳳の滝を望む展望台に着きました。高さ139メートルもあるという飛鳳の滝は、もともとあまり水量が多くない滝のようで、私たちが行った時には一部が氷結した大きな岩壁のようになっていました。ここでもコダックの社員さんが、金剛山観光客相手に記念撮影をしていました。のりまき・ふとまきは1枚も頼まなかったのですが、1枚くらい頼んでもよかったかもしれません。
飛鳳の滝展望台に立つのりまき・ふとまきと氷結した飛鳳の滝


舞鳳の滝と周囲の山々。ちなみにのりまき・ふとまきはピンクの矢印地点(九竜台)まで
登るはめになる。九竜台の左下にわずかに九竜の滝が望める


飛鳳の滝・舞鳳の滝を望む展望台の先に北朝鮮の監視員の人たちがいまして、ミス・キムとミス・イーはなにやら楽しげに話していました。そしてトランシーバーで何か打ち合わせをしていましが、打ち合わせの後ミス・キムは私たちに「少し急いでください」。と言ってきました。「はて、まだまだ時間はあるのにな……」と思いつつ、少々先を急いでみます。
やがて道が二手に分かれるところに来ました。ひとつの道はそのまま川沿いに進んでいきます。もうひとつの道は川を渡って目の前に立ちはだかった急な山を直登するようです。ミス・キムは直登コースを指差して「まずここを登ってきてください。私は仕事がありますのでここで待っています」。といいます。目の前の直登コースはみるからに急で、これはもうハイキングの範疇を少々逸脱し、登山コースに近い印象です。思いもかけぬ事態に困惑しているのりまき・ふとまきに対して、ミス・キムはどこから現れたのか、身軽そうな女の人を紹介しつつ、「この人と登ってください」。と説明します。どうやらこの女の人はここからの山登り、これまでミス・キムとミス・イーが務めていた、団体のしんがり役をするようでした。
さて、考えていても仕方ありません。山登りに出発することにします。まず目の前の橋を渡っていると、近くの岩盤に故金日成主席が、実の息子金正日氏の50歳を記念して作ったという、息子を誉めたたえた漢詩が刻まれています。更に登っていくと“主体思想万歳”と大きな文字で刻まれているのが見えてきました。道は階段あり急坂あり……そのうえ上からさっさと降りてくる人たちと登る人たちが交差するはで、結構大変です。そうこうしているうちに日頃の運動不足がたたったか、息はゼエゼエ、足は筋肉痛になってきます。そんな私たちを尻目に、林さん夫婦が軽快に山道を降りてきます。二人とも余裕の表情でにっこり挨拶していきます。正直同行しなくてよかった……
九竜台への急坂、こんな上り坂が約30分続く。

しかし登れば登るほど景色は冴えを増します。やがて遠くに東海(日本海)の青々とした姿を見せ始めてきます、そんな時に、高い絶壁に大きな文字で金正日様のお言葉が刻まれているのを目にします。もうここまでくると呆れるを通り越し、感嘆するしかありません……それにしてもいったいどうやって絶壁に大きな文字を刻み付けるのでしょうか?作業風景をぜひ見てみたいです。
(山中の絶壁に刻まれた文字、記念碑などは別ページで一括紹介します。)
疲れが目立ってきたのりまき・ふとまきはついつい愚痴っぽくなります。「事前に貰った観光ガイドじゃあハイキング程度と書いてあったのに、これじゃあ登山だ!」「疲れた…足も筋肉痛だし……」。いつまで登るのだろうかと思った私たちは、上から降りてくる現代社員のお兄さんに「あとどのくらいですか?」と、ジェスチャーで聞いてしまいます。お兄さんは片言の日本語で「50分くらいです」。と答えます。思わず「えっ!!50分!!!」と叫ぶ二人の姿を見て、お兄さんは間違いに気づき「いいえ、5分です」。と笑って訂正します。50分でなくてよかった……
現代のお兄さんのいう通り、私たちはまもなく頂上に着きました。苦労した甲斐があるというものです。360度、どちらを見回しても絶景です!!更に頂上から真下を覗いてみると、天然のネックレスのような、凍れる宝石上八潭が望めます。








九竜台からの絶景。一番下の写真の遠景に東海(日本海)が見える。

頂上は九竜台という名前だそうで、のりまき・ふとまきはしばし絶景に見とれ、“やっほー”と大声で叫んでみたり、現代の社員さんに記念写真のシャッターを押してもらったりしました。
九竜台からの下りは急なため恐かったですが、登りと較べれば結構楽なものでした。下りきって分かれ道のところまで戻ってみると、ミス・キムが私たちを待っていました。そして分かれ道を今度は川沿いに進み、今回の九竜淵コース最後の見所である、朝鮮半島3大滝のひとつ九竜の滝を見に行きました。寒さのためトイレに行きたかったのりまき・ふとまきは九竜の滝そばにある有料トイレに入ることにしました。料金は二人で5ドル、高いなあ〜と思いましたが、トイレに入ってみて納得しました。トイレの便器の下にはポリ容器が置いてありまして、どうやら排泄物は全てポリ容器に入れて、人の手によって山から下ろされるようになっているらしいのです。
九竜の滝もほとんど凍っていましたが、少々水は流れていました。九竜の滝は、上八潭から流れ出る水が74メートルの落差で流れ落ちているのだといい、やはりなかなかの絶景です。滝のそばには『観瀑亭』という東洋風の建物もあってなかなかいい感じです。
ほぼ凍結した九竜の滝

さて、九竜の滝を見終わった後、私たちは下山を始めました。いつのまにかまた私たちがしんがりになってしまったようで、ミス・キムやミス・イーと再び一緒になりました。そして今度は北朝鮮の監視員の皆さんも一緒です。北朝鮮の監視員たちはどうやら金剛山観光客の下山と同時に山を降りるようです。ミス・キムは何度も私たちの通過地点をトランシーバーで報告していました。北朝鮮の監視員さんたちとミス・キム、ミス・イーとは色々お話をしていましたが、途中日本語の話題にもなっていたみたいで、北朝鮮の監視員さんは「わかる日本語は、“こんにちは”くらいだ」などと話していたようです。
途中参鹿水のそばで金剛山の水が飲めるところがあって、そこでのりまき・ふとまきはとても冷たく美味しい金剛山の水を少々いただきました。下のバス駐車場まで戻ってみると、まだ2時になったばかりでまだ時間にはかなり余裕がありました。山の寒さのせいか多くの人はトイレに駆け込んでいました。もちろん寒空に長時間立っていた北朝鮮の監視員のみなさんも例外ではなく、一目散にトイレに駆け込んでいた監視員もいました。
ほどなくバスにみんな乗り込んで、温井里の金剛山観光施設に戻ることになりました。山帰りのバスの車中でも、ミス・イーは相変わらず元気いっぱいなにやら説明をしています。凄い人です。行きに見かけた、松の茂みの中にかくれるように緑色のトラックに乗っている監視の兵士は、やはり我々の帰りも目を光らせていました。バスはやがて温井里の観光施設に戻り、それから遅い昼食となったのです。


金剛山見取り図(1) 九竜淵コースへ飛ぶ



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