嵐の萬物相
(3)

金剛山一日目は、わりと平穏でありました……


金剛山温泉隣のテント村、子どもたちがキャンプ体験をする。


雪峰号から降りると、前回同様雪峰号のスタッフがお見送りです。入国管理事務所に向かう途中に、スーツ姿の若者が2名、立っています。胸に金日成バッチをつけているので北朝鮮の人です。前回同じ場所に立っていたのはたしか軍服姿の若者でした。今回も雰囲気的には軍人さんだと思いますが、スーツ姿の方が観光客の見る印象が穏やかに見えるだろうと、変えたのかもしれません。
入国管理事務所に入ると、前回と同じようにグループごとに整列させられます。やはり整列する順番まで決められています。私たちはタ−2グループの4番と5番でした。「北朝鮮の公務員が、事前に渡してある名簿とパスポート・金剛山観光証を確認しながら手続きをします」。担当の男性が私たちにそう説明します。そして、「のりまき・ふとまきさんの金剛山観光証には間違いがあるので、一旦回収されます」。と、説明を続けます。
入国審査が始まりました。のりまき・ふとまきは4番目と5番目の審査ですので、すぐに始まります。入国管理官は中年の男性でした。今回の人は前回の人と較べて温和な感じがして、特にいじわるそうではありません。胸に光っていたのは金正日バッチではなく、金日成バッチでした。男性は手もとにある名簿と思われる書類と、パスポート・金剛山観光証を丁寧に確認した上で、特に観光証を回収することはせず、普通に入国印を捺します。ふとまきの入国審査も、丁寧に書類を見ていましたが、やはり普通に金剛山観光証に入国印を捺します。ところで入国印を捺す時に見えた入国管理官の指は節ばっていて太く、肉体労働の痕が感じられるような指でした。そして爪も、過酷な肉体労働者の爪のようにボロボロになっていました。また、ワイシャツもかなりくたびれたもので、襟や裾がよれよれになっていました。
さて、入国審査が終わると税関検査です。これも特に問題ありませんでした。前回もそうだったのですが、カメラやビデオは税関職員が一台一台しっかりと点検します。私たちは事前に担当の男性に渡していたデジタルカメラを除く、2台のカメラをそれぞれ点検してもらいました。2台のうち1台は、フィルムをうまく巻き取れない状態となり、カメラではなく単なる箱になってしまってましたが、とりあえずこの時は点検してもらいました。
また私たちの担当の男性も、私たちが事前に預けていたデジタルカメラを女性検査官に渡して、検査をしてもらっていました。が、検査官はデジタルカメラの操作方法がよくわからなかったようで、少しの間いじくりまわしたあげくに、『まあ、大丈夫じゃないかい?』といった感じで問題なく通過させました(^o^)。
私たちが特に何事もなく入国管理事務所を無事通過して、担当の男性はやはりほっとした様子でした。「雪峰号が出発する前、北朝鮮側にのりまきさん、ふとまきさんの書類の訂正を連絡しておいたのがよかったのでしょう」。と、私たちに話してくれます。
さて、昨年と同じく北朝鮮の入国審査が終わると、すぐにホテル海金剛にチェックインです。ホテル海金剛では、昨年と全く同じ顔ぶれの3人組のバンドが、アメリカの歌を歌いながら旅行者を歓迎します。ところで、今回は出入国管理事務所の外で、北朝鮮の歌が流されていましたが、前回に較べてボリュームが小さいようで、そんなに気になりませんでした。また、出入国管理事務所にチマ・チョゴリを着た女性の姿は見えましたが、熊の着ぐるみの姿は見えませんでした。そして前回は出入国管理事務所内にあった売店も、今回は見当たりませんでした。やはり前回と全く同じというわけではないようです。
さて、ホテルに入ってみると大混雑です。前回は多分ホテルの客室は半分前後しか埋まっていなかったと思いますが。今回はほぼ満室のようです。金剛山観光では、金剛山に到着してホテルに大きな荷物を置いたらすぐに温泉と食事に出発するわけですから、とりあえずみんな急いで行動しようとします。混雑もやむを得ません。
今回の、のりまき・ふとまきの部屋はホテルのずいぶんと端っこの方でした。前回は窓から見える景色が、工事造成中のような荒れ果てた崖しか見えないような部屋でしたが、今回は窓から長箭湾が一望できる、とっても景色の良い部屋でした。湾の向こうには長箭(高城)の町もよく望めます。しかし長箭湾を屏風のように囲む山々は、霧に包まれ全く見ることが出来ません。
私たちはホテルに荷物を置くと、さっそく温泉と食事に出発するためにバスに乗り込みます。しかしなかなかバスが出発しようとしません……どうやらホテルから出てくるのが遅れてしまっている人がいるようなのです。待つこと数分、家族連れがバスに乗り込んできました。特に遅れたことをバスで待っていた人たちに謝るふうでもなく、なんだか夫婦が言い争いをしながらバスに乗り込みます。言い争いは、『カメラはどこにいった??』という内容でした。どうやら荷物のどこかにしまっておいたカメラが、いくら探しても見つからずに、結局夫婦喧嘩に発展したようです。だんなさんの方は「かばんにしまったはずだ」。などと言っていますが、妻の方は納得していないようです。周囲の乗客はそんな情景をしらーっと眺めています。
ホテル海金剛前から、バスに乗って温泉に出発する頃には雨が降り始めました。私たちの担当の男性は、「今日はこれから温泉に入ります。温泉の後、遅くとも7時半には温井閣で夕食を始めてください。午後の8時半にはバスに乗ってホテルに戻ります。温泉は一人一回12ドル。二回分まとめて買うと20ドルになります、昼食と夕食は有料になります。食事は一食9ドルです。」。と、私たちに今日これからの予定について、そして温泉と食事の料金を説明します。内容は前回と全く同じです。『海水浴場に行けない』ことについて気になっていたふとまきは、担当の男性に幾度か『海水浴場に行けませんか?』と聞いてみたのですが、男性の答えは『行けません』。の一点張り。なんだか釈然としません。
バスに乗り込むと、前回と同じように担当さんは色々ガイドを始めます。金剛山についてのガイドと同時に、これからの予定なども説明していたようです。今回は日の長い季節なので、金剛山到着時まだかなり空は明るく、バスの車窓から、ホテル海金剛から金剛山温泉までの景色を堪能できました。まず目に付いたのは、前回の金剛山旅行時にはまだ製作途中であった、長箭湾を囲む岩峰のひとつに刻まれた金正日氏を誉めたたえる大文字が完成したようで、我々の前にその“勇姿”を見せていました。相当に大きな字で、数十メートルはあるのではないでしょうか?
道が長箭湾から離れ、温井里の方に向かうあたりには、前回も見えたガソリンスタンドやバスの駐車場がありました。そして衛星放送のアンテナがついているコンテナハウスが立ち並んでいる場所もありました。これらのコンテナハウスが、最近出来たばかりの金剛山の新しい宿泊施設であるようです(注…参照)。
温井里に向かう道すがら、帰宅をする最中なのか、北朝鮮の人が道をとぼとぼ歩む姿があちこちで見えました。もちろん私たちの乗ったバスが通る道の両脇にしっかり張られた金網と、監視の兵士は健在です(-_-;)。水田には稲が植えられ、場所によってはとうもろこしや豆が栽培されている光景も目にしました。ところによっては雑草取りをまともにやっておらず、稲よりも雑草が目につく、耕作意欲に疑問を持ってしまう田んぼもありました。
コンクリート壁で囲まれた温井里の集落を横目に見つつ、やがてなつかしい温井閣が見えてきました。飴屋の金さんのお店も見えます……それから金剛山温泉です。温泉の近くに来ると、子どもたちが道を歩いています。子どもたちの数はかなり大勢のようです。そして金剛山温泉のすぐ近くには白いテントがいっぱい張られています。見ると小学3〜4年生くらいの子どもたちが、白いテントから出入りしています。どうやら子どもたちは金剛山でキャンプ生活を体験しているようです。
さて、温泉の前に到着です。前回は真っ暗でよく見えなかった花時計などもしっかりと見えます。また、温井閣から見ると“主体”と、ハングル(朝鮮文字)が大きく刻まれている山の、別方向からの景色も良く見えます。山は雨と霧の中、なかなか幽玄な雰囲気を醸し出しています。
担当の男性は、私たちに対して、目の前に見える山には色々な奇岩があると説明してくれます。そんな中、再び「あのう〜やっぱり海水浴場には行けないのですか?新聞記事で金剛山に海水浴場が出来たと聞いてきたのですけど……」。と訊いてみます。すると「はい、2泊3日観光の人は行けないのです。海水浴が出来るのは、3泊4日観光の人なのです(注)」。と、初めて納得がいく答えが帰ってきます。
花時計です。花は造花ですが、なかなかきれいです♪

温井閣・金剛山温泉の裏山、結構いい感じです。

さて、温泉であります。前回と較べて相当客が多いですが、やはり入浴できずに待つことはなく、結構みんなスムーズに入浴しています。しかしさすがに女湯の方はタオルがなくなったり、シャワーが順番待ちだったりしたようです。温泉は前回同様大変に快適であります。あと気づいたことといえば、前回と男湯・女湯がチェンジしていたことです。1時間近く温泉を堪能して、のりまきがお風呂から上がった時、まだふとまきは入浴していました。のりまきはしばらく温泉のフロントのところでぶらぶらしていました。フロントの周りにはかなりの数の子どもたちがいます。子どもたちによってはおみやげ物を買ったり、何故かフロントの近くに置かれているゲーム機で遊んだりしています。
少ししてふとまきもお風呂から上がってきました。夕食を食べに温井閣に向かう前、のりまき・ふとまきは金剛山温泉の1階・2階を見てみました。前回と大きく異なっている点は、金剛山温泉の二階の一部が改修され、バイキング式の食堂になっていた点です。どうやら金剛山温泉の敷地でキャンプをしている子どもたちの食事をする場所のようです。ちなみに前回は二階全体に金剛山を描いた絵画が飾られていました。あと一階にあるみやげ物屋の、みやげ物の種類がかなり豊富になった感じがしました。
温泉に入っている間も雨は降り続いていました。前回は金剛山温泉から温井閣まで歩いたのですが、雨も強い上、傘もなかったので断念しました。韓国の皆さんもみんなバスに乗ります。バスはすぐに温井閣まで到着します。温井閣に着くと私たちはまず飴屋の金さんのお店に行ってみました。すると、なんと金さんではなく、まったく別の若者が飴を切っています。そのとき、のりまき・ふとまきは『今、金さんは休暇中かなにかで、あの人は代わりの人なのかな??』、くらいに思っていました。
さて、夕食であります。前回と同じくバイキングですが、品揃え、味とも前回より少しレベルが上がった感じです(^o^)。夕食を終え、『そういえば、束草で雪峰号に乗り込む時に写真撮られたな……写真できているかな〜〜』。と思った私たちは、温井閣隣のコダックのお店を覗いてみました。
予想通り写真は出来ていました。私たちは出来上がっていた写真を5ドルで買うことにしました。嬉しいことに、コダックのお店の店員さんは私たちのことを覚えていて、英語で『前にも来ませんでしたか?』と話しかけてきます(^o^)。そこで、気になる飴屋の金さんについて訊いてみました。すると店員さんは『フィニッシュ』といいます。どうやら金さんは、金剛山勤めを終え、韓国に帰ってしまったようなのです(;_;)。
ふとまきと相談し、とりあえず金さんが働いていたお店の人に、金さんへのお土産を託してみることにしました。お店の人は英語が少し出来、なんとか意思が通じました。お店で働いている若者はしばらく韓国に戻れないようでしたが、結局ちょうどお店に来ていた、お店の若者の友人らしい男性が、金さんのところまで私たちのお土産を持っていってもらえることになり、ちょっと一安心です。
さて、ホテル海金剛に帰るまで、バスを待つ温井閣は大混雑です。温井閣には開設を認めるかどうかで韓国内でもめた、“免税店”がありました。問題の免税店は駅のタバコ屋さんくらいの規模で、洋酒とタバコしか商品はありません。客も金剛山のみやげ物屋に較べ少ないようです。本当にこんな免税店を開設することをめぐって、ああでもないこうでもないともめたのでしょうか?
金剛山の免税店……規模的には駅のタバコ屋

免税店の近くにはゲストブックが置かれていて、金剛山観光の感想などを記入できるようになっています。前回、のりまき・ふとまきは書き込みを遠慮したのですが、今回はしっかり日本語で金剛山観光の感想を書かせていただきました(^o^)。
さて、夜の8時半すぎにバスはホテル海金剛に戻ります。辺りはすっかり暗くなっています。北朝鮮の民家のつつましやかな明かりは前回と同じです。ホテル海金剛に近づき、長箭の町の方角を見てもやはり明かりはほとんど見えません。
ホテル海金剛に着いてから、私たちの担当の男性が翌日の説明をします。「朝の6時から朝食です。朝の8時には九竜の滝に向けて出発します…」。と説明を始めたので私たちはびっくりです。私たちは今回の金剛山旅行では万物相コースを希望したのです。そのことを係の男性に話すと、驚いたような表情を見せ、「では、明日の朝までに会社に改めて確認します」。と言います。観光希望コースが現場までちゃんと伝わっていないとは……どうやら、観光客の増加で本当に現代峨山はてんてこ舞いのようです。
さて、ホテルの部屋に戻り、軽くシャワーを浴びてからのりまき・ふとまきは就寝です。なにせ明日6時から朝食……良い子生活にならざるを得ません。


(注):ここの部分の説明は結構ややっこしいのですが、今後の『嵐の万物相』の、話の展開上説明しないわけにいかない内容なので、説明をします。
2002年6月始めから、金剛山観光は従来からあった2泊3日コース以外に、3泊4日コースが始まりました。金剛山観光客の増大に対応するため、雪峰号が月20回、束草と金剛山を往復することになったことにより、3泊4日観光が可能になったのです。
2泊3日観光の人は、ホテル海金剛か雪峰号に宿泊し、3泊4日観光の人は金剛山観光従事者が暮らしていた、“生活団地”というコンテナを改造した住居を、観光客を迎えられるように改めて改修をした金剛ビレッジという場所に泊ります。また、私たちが金剛山に行った時には、3泊4日のスケジュールで子どもたちも金剛山温泉隣のテントでキャンプをしていました。

ところで雪峰号の運行は、私たちの旅行した7月20日前後は
束草→金剛山  金剛山→束草
  18日        19日
  19日        20日
  21日        22日
  22日        23日

という運行をしていました。これを見ればおわかりのように、雪峰号は金剛山に観光客を運ぶと翌日束草に戻り、またすぐに金剛山に向かい、次の日束草に戻るというスケジュールを繰り返しています。こんなやりかたでどうして雪峰号に宿泊が出来るのかというと……
        束草→金剛山                           金剛山→束草
18日(2泊3日観光客…束草出発・金剛山到着)  19日(16日出発の3泊4日観光客、金剛山から束草へ帰る)
19日(3泊4日観光客…束草出発・金剛山到着)  20日(18日出発の2泊3日観光客、金剛山から束草へ帰る)
21日(2泊3日観光客…束草出発・金剛山到着)  22日(19日出発の3泊4日観光客、金剛山から束草へ帰る)
22日(3泊4日観光客…束草出発・金剛山到着)  23日(21日出発の2泊3日観光客、金剛山から束草へ帰る)

という回転がされているのです。例えば私たちと同じ18日束草出航から説明すると、18日束草を出航した雪峰号は金剛山に到着すると、ホテル海金剛の宿泊客を降ろし、その夜は雪峰号に宿泊するお客さんを泊めることになります。そして翌19日朝、雪峰号は宿泊している観光客を金剛山観光へと送り出した後、朝の8時頃に3泊4日の観光日程を終えた観光客を乗せ、束草港へ向かいます。その時金剛山観光客が宿泊している部屋は、宿泊客の荷物などが置きっぱなしになっていますので、立ち入りが出来ない形になっていると思われます。そして昼前後に雪峰号は束草港に戻ると、新たな3泊4日の観光客を乗せ、午後の2時から3時頃に改めて金剛山へ向かいます。やはり宿泊する部屋には立ち入りができない形になっていると思います。夕方の6時〜7時頃に雪峰号は金剛山に到着すると、新たな3泊4日の観光客を降ろし、夜、金剛山観光を終えて戻った、2泊3日の雪峰号宿泊の観光客を宿泊させているのです。つまり19日は雪峰号宿泊者が金剛山観光をしている間に、雪峰号は宿泊者の荷物を載せたまま、金剛山ー束草を往復していることになるのです。
そして翌20日に、海金剛と三日浦の観光を終えた2泊3日の観光客(ホテル海金剛・雪峰号宿泊者)を乗せて、雪峰号は束草に戻るわけです。
3泊4日の観光客は、一回の観光で九竜の滝・万物相・海金剛/三日浦の3コースを廻るようになっているようです。つまり2日目か3日目どちらかの午後に海金剛/三日浦を廻り、もう一日の午後に海水浴場に行くというスケジュールになっているようなのです。また、3泊4日観光の時宿泊する、コンテナハウスを改造した宿舎(金剛ビレッジ)の泊りごこちはあまりよくないようで、今のところ2泊3日と3泊4日は同じ料金にしているようです。



嵐の萬物相(2)へ戻る

蓬莱の巻に戻る

金剛一万二千峰へ戻る

のりまき・ふとまきホームへ戻る


嵐の萬物相(4)へ進む