金剛山観光開発(2)

2003年9月1日に本格実施された陸路観光。
その後、しばらくの間は金剛山には多くの観光客が訪れ、
ホテルやレストランなどの観光施設も完成し、金剛山観光は充実していきました。
ここでは主に陸路観光になってからの金剛山観光の流れと、
現代グループの金剛山観光施設の建設状況をまとめてみました。



 金剛山観光は陸路観光が本格開始された2003年9月1日以降、比較的順調に事業が展開されるようになりました。これは陸路観光を推進するにあたっての目論見が当たったからに他なりません。
 つまり陸路観光は海路と比べて金剛山まで向かう往復の時間が短く済み、そのために日帰り、一泊二日などの短期間の観光実施が可能になって、「ちょっと金剛山を見てみたい」。というニーズにもある程度応えられるようになったこと。陸路は海路と比べて往復にかかる費用が安く済むので観光料金も下がったこと。それになんといっても軍事境界線を直接越えることができる陸路そのものが観光の目玉になったことも見逃せません。北朝鮮が金剛山を観光特区に指定したことも加わって、金剛山観光に追い風が吹いていたこの時期、金剛山観光関連の設備の整備が急ピッチで進められました。

宿泊施設の充実

 2004年7月初め、日帰り観光と一泊二日観光が開始されます。それと同時期に北朝鮮が建設し利用していた金剛山旅館のリニューアルが完成し、金剛山ホテルとしてオープンします。
 ところで金剛山旅館は1958年にオープンした金剛山の宿泊施設で、朝鮮総連のバックアップで建設された外国人など賓客専用のホテルでした。金剛山旅館は全部で7棟あって、メインの建物は12階建ての立派な建物ですが、韓国からの金剛山観光が始まった頃には老朽化が進み、蛇口をひねっても水が出ないので、近くの金剛山温泉まで顔を洗いに行かねばならないほどの状態であったといいます。
 金剛山ホテルはリニューアル後も主に北朝鮮側の職員によって運営がなされ、ホテルでは毎晩「金剛山芸術小組」による北朝鮮の歌の公演が行われるなど、北朝鮮らしいユニークなサービスが提供されるようになりました。もちろんホテルの設備もなかなかです。


金剛山ホテルで毎晩行われる金剛山芸術小組の公演光景です。

 続いて2005年秋には高城湾のそばに金剛ファミリービーチホテルがオープンします。これは韓国の企業が出資して作ったホテルで、高城湾のオーシャンビューと金剛山の景色を楽しめる景勝地に建てられました。洋風のおしゃれな感じがする建物で、内部設備もなかなか良さそうです。


金剛山ファミリービーチホテル

 そして2006年7月初めには、温井閣の西隣にあった北朝鮮側の宿泊施設、「金正淑保養所」がやはりリニューアルされて、外金剛ホテルとしてオープンします。このホテルは北朝鮮側が経営を担わず、韓国側が経営をしています。中華料理や西洋料理を食べることができるレストランがあって、韓国人以外の観光客への対応についても考えられたホテルです。もちろん内部設備は充実しています。


外金剛ホテルです。リニューアル前は老朽化が進み、お化けでも出そうな建物であった。

 ホテル以外にも大人数で宿泊する安い宿泊施設が新たに建てられました。2003年夏には金剛山温泉敷地内にはジオドームという、10名程度の大人数が宿泊できるドーム型の宿泊施設ができました。続いてホテル海金剛前の空き地ではペンション型の新たな宿泊施設の建設が行なわれ、2004年1月には完成し、利用が開始されました。そして2005年6月には温井閣の東隣の九龍ビレッジが完成します。金剛山には以前よりも多くの観光客が集まるようになっており、宿泊施設の充実が必要だったのです。


食堂などの観光施設

 その他の観光施設では、まず金剛山玉流館の建設が挙げられます。玉流館は冷麺の本場、平壌にある食堂で、冷麺の老舗として知られています。2005年秋にはその玉流館の金剛山支店がオープンしたのです。建物は韓国側が建設し、運営は全て北朝鮮側に任せ、収益の一部を現代峨山に納める形で運営されています。たしかにここの冷麺は美味しいのですが、日本で食べるのよりも高いために現代峨山は「安くしてはどうか?」と提案し続けているそうですが、プライドの高い北朝鮮側は値段を下げようとしないそうです。


金剛山玉流館です。朝鮮風の建築が金剛山の光景とよくマッチしています。

 2005年夏には金剛山観光客がみやげ物の買い物などをする温井閣の新館として、東館が出来ました。東館には韓国国内のデパート内にありそうな食堂などがオープンしました。東館の食堂にいると、正直北朝鮮にいる感じがしません(笑)。出てくる食べ物も韓国国内のデパートで食べるのと同じようなもので、金剛山に駐在する現代峨山の職員さんによると「フライドチキンが食べたくなったら東館の食堂に行くと良い」。と話していました。


温井閣東館内にあるレストランのひとつ。これでは北朝鮮に来た気がしない(笑)。

その他にも高城湾の海沿いにきれいな遊歩道をつくり、海辺の散策が出来るようになりました。


高城湾沿いの遊歩道。景色も美しく、散歩にはうってつけの快適な遊歩道です。向こうに浮かぶホテルであるホテル海金剛が見えます。

 その他、北朝鮮がかつて作ったレストランである九竜淵コースの入り口に木蘭館と三日浦のほとりの丹楓館(ともに金剛山旅館の付属施設であった)は、改装がなされた上で2003年夏ごろから利用されるようになりました。そして金剛山旅館の入り口左隣にある高級朝鮮料理が楽しめるレストラン、金剛苑も2003年度の夏の観光から利用ができるようになりました。
 2003年12月31日には、旧日本植民地時代に外金剛スキー場があった、温井里近郊の丘に雪遊びやそりが楽しめる簡易スキー場がオープンしました。2004年1月には高城湾沿いに海鮮レストラン「高城港刺身店」がオープンして、北朝鮮の海でとれた100パーセント天然物の海の幸が堪能できるようになりました。ここで料理される全ての魚介類は北朝鮮の漁民たちから直接仕入れているとのことで、あわびや毛ガニはお土産として韓国に持ち帰ることも可能です。
 新しいといえば韓国と北朝鮮の共同事業らしく、温井閣に北朝鮮側の売店である温井奉仕所も出来ました。これは北朝鮮側から現代峨山に提案があって始まった事業で、現在は外金剛ホテルの駐車場脇で北朝鮮の飲み物や軽食を観光客相手にふるまっています。物珍しさも手伝ってかそこそこ繁盛しているようでした。

 そして現在も金剛山観光施設は建設が進められています。その代表が18ホールの国際大会も開催可能なゴルフ場です。金剛山の絶景を眺めながらプレイを楽しめることと、パー7の世界一のロングコースが売りとのことですが、北朝鮮の核実験実施のせいで、今後国際大会を金剛山で開催するのは非常に困難と思われます。しかしゴルフ場の建設は今なお中断されることなく進められています。


韓国国内でも…

 金剛山観光関連の施設はなにも金剛山にあるものばかりではなく、韓国国内にも関連施設はあります。まず2006年7月にオープンした金剛山観光出発地の花津浦峨山休憩所が挙げられます。もともと金剛山観光のスタートは金剛山コンドミニアムというホテルだったのですが、現代峨山は自前の施設を完成させたのです。


金剛山観光出発地の花津浦峨山休憩所です。食堂、売店があり、駐車場もあるので金剛山帰りまで車を停めておくことが可能。

 ところで花津浦峨山休憩所について、地元の高城郡住民はあまりよい印象を持っていないようです。花津浦は観光地なのでなかなか新しい建物を建てる許可が下りないのですが、対北朝鮮事業用の花津浦峨山休憩所には簡単に許可が下りたそうで、地元民にとっては複雑な思いがあるようです。

 韓国と北朝鮮とを繋ぐ道路と鉄道も整備が進んでいます。道路は二車線の立派な舗装道路ですし、陸路で金剛山へ向かう手続きを行う「東海線陸路出入事務所」はとても立派な建物です。その上いつ運行させるか全く目途が立たない鉄道関連の設備も実に立派なものが出来ています。そして2006年5月にいったん韓国と北朝鮮間で合意された試運転で使用される予定であったディーゼル機関車と客車が、所在無げに放置されていました。


これが猪津駅。とても立派な建物ですが、北朝鮮へ鉄道で行ける日が果たしていつになるか全く見当もつかない。


猪津駅に放置されている車両と北朝鮮へ向かって延びる線路。この線路をいつ列車が走ることになるのか…

 こうして見ていくと現代峨山、そして韓国政府は金剛山観光に莫大な投資をしていることがわかります。ミサイル発射や核実験など、度重なる北朝鮮の挑発にもかかわらず、金剛山観光の中断をなかなか決断できないのは、こうした巨額の設備投資も一因となっているのです。


(2006・10・15 完成)



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