金剛山協会について


その昔、『金剛山協会』という財団法人がありました。
日本領であった戦前の朝鮮半島において、1932年に
金剛山の観光振興などを目的として『金剛山協会』は設立されました。
設立経過・規約などを見ていると、戦前の日本人が
金剛山をどのように見ていたのか、見えてくるものがあると思います。

注:《原文表記》では、可能なかぎり旧字体・旧仮名遣いの原文どおりの表記につとめます。

(2004・5・5 最終加筆)


財團法人金剛山協會設立の趣旨概要

《原文表記》
 朝鮮には世に誇るべきものが少くないが中にも天下の絶勝金剛山は其の尤なるものであります
 金剛山は半島脊梁中部江原道北東隅に盤崛する一大山彙で全山彙無數の風景群を成し景觀雄大その地域約7里平方周圍二十餘里に亘り天を摩する危峰各處に聳え古來一萬二千峰と稱せられ此の間渓谷錯綜、斷岸絶璧眞に造化の妙を極め豪壯な山嶽美は幽邃な溪谷美と相俟って一大~秘境を現じ我國に於て昨今計畫中の國立公園の候補地は勿論世界の何れの風景に比するも優に冠絶して居るといふことは中外の齊しく認むるところであります
 加之高山植物を首め多数の植物を藏し且鑛物學及地質學研究の資料豊に古き傳説並に好詩材好畫題に富み又山麓に於ける温泉の湧出量頗る多く山中處々の寺刹の建築美亦誇るに足るものがあります斯くの如き大勝區を有する我國に在つては之を保存し之を利用することが全く國民的義務であります
 輓近交通の便が開けるに伴れ内外探勝客激揩フ趨勢に在るに拘らず勝區としての各種設備は勿論隣接地の附屬設備亦甚だ不充分であつて到底一般探勝客に滿足を與ふることの出来ぬのは最も遺憾とする所であります就ては各地の勝區に於けるが如き内外諸般の設備を整へ風景並に建築物等の維持利用の完璧を圖り以て一層探勝客を誘致し他日本邦國立公園中の首班たるべき地位に耻ぢしめぬようにすることは實に目下の急務であります
 此の使命を遂行せんが爲有志相謀り財團法人金剛山協會の設立を計畫し茲に認可を見るに至つた次第でありますが大方ゥ彦冀くは奮つて援助を賜はり以て本會設立の目的を達成せしめられたいものであります

《のりまきの意訳♪》
 朝鮮には世に誇るべきものが少なくありませんが、その中でも天下の絶勝、金剛山は最も素晴らしいものです。
金剛山は朝鮮半島の分水嶺の中ほど、江原道東北部にある一大山塊です。金剛山は全山域に無数の絶景があり、雄大なその地域の面積は約50平方キロメートル、周囲は100キロ近くにもなります。
 金剛山は天にそびえたつ峰々が各所に見られ、古来一万二千峰と言われ、また多くの深い渓谷が刻まれています。断崖絶壁はまさに自然の美をきわめ、男性的な山岳美、奥深い渓谷美などとあいまって、一大神秘境を作り上げています。金剛山は我が国の国立公園候補地であるのはもちろんのこと、世界のいかなる風景と比較してもとびぬけて素晴らしい風景であることは、国の内外で広く認められているところです。
 また、金剛山は高山植物をはじめ、多くの植物が自生し、鉱物学や地質学研究においても興味深い場所です。そのうえ金剛山には古い伝説や詩や書の題材も多く、ふもとには温泉が豊かに湧き、山中のところどころにある寺の建築美にも見るべきものがあります。このようなすばらしい金剛山を持つ日本にとって、金剛山の美しさをいつまでも守りながら利用してくことは、本当に国民的義務なのです。
 最近、金剛山への交通の便が開けてくるにつれて国の内外からの観光客が激増してきているのにもかかわらず、景勝地としての観光施設等各種施設はもちろんのこと、金剛山近隣の宿泊施設なども大変に不足していて、一般観光客が満足できる状態に程遠い現実は、大変に残念なことです。そこで、他の景勝地のように色々な施設の充実を進め、また美しい風景や寺などの建築物を守り、さらにもっと活用できるようにして、金剛山により多くの観光客を呼び、他の日本国内の国立公園と比較してみてもトップの地位に置かれるはずの金剛山の素晴らしさからみて恥ずかしくないようにすることは、我々が早急に行なわねばならない課題なのです。
 以上の使命を果たすために、志を同じくするものが集い、財団法人金剛山協会の設立を計画し、協会の認可に至ったわけなのでありますが、願わくば皆様の厚いご支援を賜り、本会設立の目的を果たしたいものであります。


財團法人金剛山協會の設立に就いて

今井田會長談
《原文表記》
 天下の絶勝と謳はれる世界的風景金剛山は其の卓越せる山岳美渓谷美に加へ更に建築美を以てし古來傅説に富み詩材畫題豊で朝鮮の誇り否寧ろ我國の誇りとして其の尤もなるものに屬するが近年その名頓みに著はれ且交通亦海陸とも便を揩オ元山港と金剛山麓に近い長箭港との間の航路は夙に開け又近く國鐵東海北部線は同京元線安邊驛より金剛山麓に近い通川驛まで開通して外金剛方面の探勝に便し別に京元線鐵原驛金剛山電鐵内金剛驛間の電車は京元線と聯絡を保つて内金剛方面の探勝に便するに至れる關係上内外觀光客の數は最近激揩オ來つたけれども遺憾なことには廻遊路線や休憩所や旅等を首め勝區としての各種設備が未だ之に伴はず觀光探勝の客の數も所謂國立公園の候補地の王座を占むる金剛山の眞價に副ふほど多くならぬのに加へ地質や鑛物や植物や建築其他の研究等其の利用がまだまだ充分でないのである
 從來總督府や江原道保勝會(注)等で既に風景の維持及利用について多少力を致したけれども内外各地の勝區に於けるが如き各般の設備が未だ整ふに至らぬため茲に財團法人金剛山協會を設け廣く天下に呼かけて大方の賛助を求め同勝區の維持利用上萬遺憾なきを期することになつたのである


財團法人金剛山協會設立經過概要

《原文表記》
一、金剛山ノ保勝計畫ハ山林、鐵道、道路、電話、寺刹ノ經營ニ密接ノ關係アルヲ以テ是等各方面ノ連絡ヲ圖リテ統制アル施設ノ計畫及實施ヲ爲スノ必要アルヲ認メ昭和五年一月以降總督府關係局部(内務、學務、遞信、鐵道、山林)江原道廳、金剛山電鐵會社ノ關係者等隨時相集リテ打合會ヲ開催シ各々其ノ分掌ニ從ヒテ漸次保勝經營ノ計畫及之ガ實現ニ努メ來レリ而シテ此ノ打合會ニ於テ保勝經營ノ圓滑ナル遂行ヲ期スル爲官ノ施設ニ助力スベキ有力ナル機關ヲ設立スルノ必要ヲ認メ之ガ實現ヲ圖ルコトトナレリ

二、即チ打合會ニ於テハ先ヅ助力機關トシテ財團法人ヲ設立スルヲ可トシ之ガ名稱、目的、事業、資金、役員等ニ就テ前項關係者ニ於テ研究ヲ進ムルニ至レリ

三、而シテ保勝經營ニ關スル根本ノ計畫ニ就イテハ昭和五年五六月山林部ニ於テ風景地區及其ノ利用状況ノ實地ノ基礎調査ヲ行ヒ又同年七月國立公園ニ關スル權威者タル田村、上原兩博士ニ委囑シテ實地視察ヲナサシメ大金剛山ノ風景計畫ノ起案ヲ依ョセリ

四、次ニ昭和五年八月兩氏ノ計畫案ニ基キ打合會ヲ開催シ(政務總監統裁ス)取敢エズ緊急ト認ムル内外金剛ヲ連絡スル自動車道路、景勝地内ノ電話線、探勝道路及山小屋ノ施設ニ着手スルコトトシ其ノ經費(三一、四〇〇圓)ヲ六年度豫算ニ提出要求スルコトニ決定セルモ右豫算ハ拓務省於テ削除セラレタリ

五、斯クテ昭和五年十一月夙ニ金剛山ノ經營ニ盡力シ協會設立ノ必要ヲ主張シ居ラレタル金剛山電鐵會社々長久米民之助氏ヨリ協會ノ基金トシテニ萬圓ノ寄付ノ申出アリタルニ依リ愈協會設立ノ具體化シ得ル機運ニ到達シ更ニ進ンデ有志ニ寄附ノ勸誘ヲ爲スコトトナリタルモノトス

六、寄附金ハ前記久米民之助氏ノ二萬圓ヲ筆頭トシテ總計ニ萬八千三百圓ニ達シタルガ一先ヅ寄附ノ勸誘ヲ打切リ之ヲ資産トシテ昭和七年一月三十日財團法人金剛山協會設立許可申請ノ手續ヲ爲シ去ル四月十一日附ヲ以テ設立ヲ許可セラレ同十九日之ガ登記ヲ了シタリ


金剛山協會(規約)

《原文表記》
第一章 名稱及事務所

第一條 本會ハ財團法人金剛山協會ト稱ス

第ニ條 本會ノ事務所ハ京城府光化門通一番地ニ置ク

第ニ章 目的及事業

第三條 本會ハ金剛山ノ保勝竝ニ景勝ノ利用攝iニ關スル施設經營ヲ爲シ
     併セテ官ノ施設ニ助力スルヲ目的トス

第四條 本會ハ前條ノ目的ヲ達スル爲左ノ事業ヲ行フ

 一 金剛山ニ關スル各種ノ調査

 ニ 金剛山ノ紹介及ビ宣傳

 三 講演會又ハ展覽會等ノ開催

 四 公會堂及宿泊、休憩ニ必要ナル施設及ビ其ノ經營

 五 運動、娯樂其ノ他遊園等ニ關スル施設及ビ其ノ經營

 六 別荘其ノ他住宅地ノ經營

 七 案内ニ關スル各般ノ施設

 八 前各號ノ外本會ノ目的ヲ達スルニ必要ナル各種ノ施設

第三章 資産及會計

第五條 本會ノ資産左ノ如シ

 一 本會設立ノ際ニ於ケル資産(別紙目鴻m通)

 ニ 政府又ハ公共團體ノ補助金

 三 篤志者ノ寄附ニ係ル金錢又ハ物件

 四 前各號ニ掲グル資産ヨリ生スル収入及ビ其ノ他ノ收入

第六條 本會ノ資産ヲ分チテ基本財産及普通財産トス 左ノ各號ノ一ニ該當スルモノハ之ヲ基本財産トス

 一 前條第一號ニ掲グル資産

 ニ 基本財産トシテ指定アリタル補助金

 三 基本財産トシテ指定アリタル寄附金又ハ寄附物件

 四 前年度剩餘金等ニシテ評議會ニ於テ基本財産ニ編入ノ決議ヲ爲シタルモノ
   基本財産ハ其ノ元本ヲ消費スルコトヲ得ス但シ己ムヲ得サル事由ニ依リ
   評議會ノ議決ヲ經タル場合ハ此ノ限リニ在ラス
   基本財産タル現金ハ郵便官署、確實ナル銀行若ハ金融組合ニ預入レ又ハ
   國債證券若ハ確實ナル有價證券ニ換フルモノトス但シ必要アル場合ハ
   評議會ノ議決ヲ經テ不動産ヲ買入レルコトヲ得

第七條 本會ノ經費ハ基本財産ヨリ生スル收入、基本財産ニ屬セサル補助金、
     寄附金其ノ他ノ收入ヲ以テ之ニ充ツ

第八條 本會ノ會計年度ハ毎年四月一日ニ始マリ翌年三月卅一日ニ終ル

第九條 本會ノ歳入出豫算ハ毎年度評議會ノ議決ヲ經テ會長之ヲ定ム

第十條 本會ノ歳入出決算ハ毎年度終了後速ニ會長之ヲ調製シ監事ノ監査ヲ經其ノ意見ヲ附シテ
     之ヲ直近ノ評議會ニ報告スヘシ

第四章 役員及職員

第十一條 本會ニ左ノ役員ヲ置ク

 一  會 長  一 名

 一  副會長  二 名

 一  幹 事  若干名

 一  評議員  若干名

 一  監 事  若干名

第十二條 前條ノ役員中會長、副會長及幹事ヲ以テ本會ノ理事トス
      會長ハ本會ヲ代表シ本會ノ事務ヲ總理ス
      副會長ハ會長ヲ補佐シ會長故障アルトキハ會長ノ定メタル順位ニ依リ其ノ職務ヲ行フ
      會長、副會長共ニ故障アルトキハ豫メ會長ノ指名セル幹事其ノ職務ヲ行フ
      幹事ハ其ノ職務ヲ行フ
      幹事ハ会長ノ指揮ヲ承ケ本會ノ常務ヲ處理ス
      監事ハ本會ノ財産及業務ノ状況ヲ監査シ出納ヲ檢査ス

第十三條 會長ハ朝鮮總督府政務總監ヲ推戴ス
      副會長及監事ハ評議會ノ推薦ニ依リ之ヲ委囑ス
      評議員及幹事ハ會長之ヲ委囑ス

第十四條 會長ヲ除ク外役員ノ任期ハ三年トス但シ重任ヲ妨ケス
      補缺ノ爲就任シタル役員ハ前任者ノ殘任期間在任ス

第十五條 本會ニ顧問若干名ヲ置ク
      顧問ハ評議會ノ推薦ニ依リ會長之ヲ委囑ス
      顧問ハ重要ナル事項ニ關シ會長ノ諮問ニ應ス

第十六條 本會ニ豫算ノ定ムル所ニ依リ職員ヲ置クコトヲ得
      職員ハ會長之ヲ命ス會長ノ命ヲ承ケ會務ニ從フ

第五章 評議會

第十七條 評議會ハ理事及ひ評議員ヲ以テ之ヲ組織シ本寄附行爲ニ定ムル事項
      及本會ニ關スル重要ナル事項ヲ議決ス

第十八條 評議會ハ會長之ヲ招集ス
      評議會ノ議長ハ會長、會長故障アルトキハ副會長會長ノ職務ヲ行フ例ニ依リ之ニ當ル

第十九條 評議會ノ議事ハ本寄附行爲ニ特別ノ定アル場合ヲ除ク外出席者ノ過半數ヲ以テ之ヲ決ス
      可否同數ナルトキハ議長ノ決スル所ニ依ル

第二十條 評議會成立セサルトキ又ハ成立スルモ議決スヘキ事件ヲ議決セサルトキハ
      會長ハ其ノ議決スヘキ事件ヲ專決處分スルコトヲ得
       評議會ノ議決ヲ經ヘキ事件ニ關シ臨時急施ヲ要スル場合ニ於テ會長ニ於テ之ヲ
      招集スルノ暇ナシト認ムルトキハ會長ハ之ヲ專決處分スルコトヲ得
       前二項ノ規定ニ依ル處分ニ付テハ會長ハ次囘ノ會議ニ於テ之ヲ評議會ニ報告スヘシ

第廿一條 評議會ハ其ノ議決スヘキ事件ニシテ輕易ナルモノニ付テハ豫メ議決ニ依リ之ヲ会長ニ
      一任スルコトヲ得

第六章 寄附行爲ノ變更及解散

第廿ニ條 本寄附行爲ハ評議會ニ於テ理事及評議員總數ノ二分ノ一以上出席シ出席者ノ
      三分ノニ以上ノ囘意ヲ得且主務官廳ノ認可ヲ經ルニ非サレハ之ヲ變更スルコトヲ得ス

第廿三條 本會ハ前條ト同樣ノ手續ヲ經ルニ非サレハ之ヲ解散スルコトヲ得ス
       本會解散ノ場合ニ於テ本會ニ屬スル財産ハ評議會ノ議決ニ依リ本會ノ目的ト同一
      又ハ類似ノ事業ノ爲之ヲ處分ス

附則

第廿四條 本會ノ役員及顧問ハ本會設立ノ際ニ限リ第十三條及第十五條ノ規定ニ拘ラズ
      會長ニ於テ之ヲ委囑ス


(注)1932(昭和7)年以前の金剛山各種資料には、『保勝会』という名前の金剛山地区の環境保全と観光振興を図る団体がしばしば登場します。
 1931年に刊行された金剛山記(菊池謙譲氏著)によれば、保勝会は1931年当時で創立20年を迎えたそうです。この記述が正しければ、保勝会は日本が韓国併合を行なった直後から活動をしていたことになります。また、『京城と金剛山』の記述などからすると、保勝会の正式名称は『江原道金剛山保勝会』であったと思われます。
 ところで保勝会の活動は金剛山中の案内板の設置が目立つ程度の、あまり活発な組織ではなかったようで、より活発な組織の登場が望まれた結果、金剛山協会が成立したようです。



以上の文章は《岡本暁翠著・京城と金剛山》より抜粋しました


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