巻13 
−海老名の性格、その卒論着手ー
 「海老名、大学4年 そのC」


Y大学教育学学士(心理学)
今 柊ニ
黒崎 犀彦
共著(原本執筆は、今 柊ニ)1994.6.


当研究も終盤に近づいてきたので、ひとつここで、この研究の進め方について記しておこう。大体夜中に黒崎学士と集い(22:00ころ)まず、古本屋を探索する。地区はH区とK区が多かった。しかる後、ファミレに行って食事をとりつつ、本研究を始める。そして、鉛筆での対話を私が下書きし、それを持ち帰って私が、サインペンで清書し、マンガをいれるのだ。

なお、このサインペンでの清書の85%は私の通勤途中の東○線の中で行われたものである。

今 柊二


1章 はじめに

今:いよいよ魔の13巻目ですね。「呪い」は大丈夫でしょうか?

黒:いまのところ、どういうわけか体調は万全です。

今:ところで、ここは横○○ですが、ひょっとすると労働1号(注1)がとんでくるという呪いがあるかも……

黒:横○○は、数年後に爆弾を落とされてもおかしくはないところですからね。

今:まあとりあえずはじめましょうかね。

2章         卒論の画策

今:さて、夏休みも終わると4年の我々はいよいよ卒業論文に取り掛からねばなりません。まあ、私は、10月に休学届けを大騒ぎの挙句提出して、晴れて完全に大学を撤退してしまいましたので、そのあたりのみなさんのいきさつは知りませんが、翌年には皆さんと同様に苦労しましたよ。

黒:当時、私はいろんな人から「今くん元気にしている?」とよく聞かれたものです。「なんか危ないなぁ」と、答えるわけにもいかないので、「元気にしているよ」と言っておいたのです。

今:あの当時、あなたは鎖国している私にとってはオランダ人のような存在でしたからねぇ。

黒:そういう例えで言うなら、もう一つ別の国が死にそうな声で助けを求めていたのです。

今:その国とは?

黒:あえて、E国、S共和国とでも言いましょうか。

今:ああ、海老名とS青年(注2)のことですね。S青年はともかく、海老名は卒論をどうしたのでしょう?ところで、思い起こせば、海老名は大学3年のとき、「臨床(心理)をやりたい」と強く主張しつつ、(本人としては)仕方なしに数理心理のNゼミに行ったのですが、やはり臨床に対する思いは卒論の時にも残っていたのでしょうか?

黒:そうです。卒論のテーマは臨床系のものでした。詳しくはわかりませんが、精神病院にアルバイトに行っていたこともあって、“精神病者の臨床的研究”とでも言うようなことをやっていたと思います。

今:キ○ガイがキ○ガイのことを研究出来るんですかね?

黒:同じキ○ガイ同士だからこそわかりあえる部分も多かったんじゃないですか?ともかく精神病院で、ロールシャッハテストを行っているように見えました。

ただ、私としてはそこで転移(注4)や逆転移が頻繁に行われてやしないかととても心配でした。

今:一般の方にわかりやすく説明すると、キ○ガイ×2はキ○ガイの3倍になるということでしょうか?つまりキ○ガイが集まるともっとキ○ガイになるのですかね?

黒:ともかくキ○ガイというのは止めましょう。

今:はい。キ○ガイということはやめます。ええと、それでキ○ガイが……

黒:やめなさいって!!このように海老名としては気合が入った卒論を制作していたにもかかわらず、何を目的とした卒論なのかは最後の最後までわかりませんでした。

今:多分自分の星の言葉に翻訳していたため、日本語での研究がおろそかになったのでしょう。

黒:私は地底人への翻訳だと思いますが。さて、それはともかく、ロールシャッハテストの分析においては、同じく臨床心理に熱き思いをよせているJ(ふとまき注:図の中ではK)という男と共同で研究作業を続けていました。ああ、それなのに…“昨日の友は今日の敵”という形に散ってしまうとは…

今:そうでした。同級生のJは真面目な男なんですけど、エロスな男でしたから。

黒:久しぶりにエロスという言葉が出てきましたね。では、次に話さなければならないことも自然に決まっていましたね。

今:そう、エロスなき男の話です。

3章         海老名の愛‘89 クリスマス挫折偏

今:さて、卒論にもどうやら取り掛かり、教育実習も終え、挙句の果てに地方公務員試験にも合格してしまうという、海老名の人生においては“おぼん”と“正月”が一挙に一生分押し寄せてきたようなラッキーな89年でしたが、彼のもう一つの欲動たる愛はどうだったのでしょうか?

黒:そんなことは聞くまでもないと思いますよ。

今:まあまあ、そう言ってしまえば面白くありません。さて、89年は前述したように増長し続けた海老名でしたが、89年の最後に彼はまた増長ついでにとんでもないことをたくらんだのです。それは世間の人々がクリスマスと呼ぶイベントでした。ふとときにも海老名はそれに参加しようとしたのです。それはあたかも1941年当時、ナチスドイツでユダヤ人が国会議員になろうというような無謀なものでした。その無謀な試みを達成しようとした相手は……

黒:これまでも何回か登場しているゆ○○さんです。クリスマスとはいえ、海老名は反キリスト的存在ですからね。就職に関してはアレイスター・クロウリーなみの(注5)魔術を発揮した海老名はもう一度、その魔術を使おうとしたんでしょうね。

今:しかし、使えませんでした。彼は、88年に免許を取り、挙句の果てに中ブルの軽自動車を購入していましたが、その中ブルをクリスマスの武器として使用しようと試みました。私も詳しくは知りませんが、彼の計画としては、

というような妄想だったようです。まあ、これまでにもBまでは想像することが可能だったようですが、Cはまだ未知の世界だったようです。それでトライしたわけですが、Cはおろか、@も出来なかったようです。
黒:つまり、ノートライだったわけですね。(注6)

黒:そうです。ゆ○○さんはきませんでした。この事件において増長政策をとっていた海老名はあたかもミッドウェーの戦いを越えた日本軍のような状況であったに違いありません。その証拠に年が明けた1990年には彼にはおそるべき試練が待ち受けていたのです。そうミッドウェー海戦後の日本軍のように。

4章         海老名の愛 ‘90挫折偏…「み○○○事件」

黒:ちょっと待ってください。1990年に入ってからのことですが、愛についてはもう一つ重要な事件がありました。

今:それは何ですか?

黒:私は「み○○○事件」と呼んでいます。彼女こと み○○○は2年下の心理科の学生で、当時私はそんな女の子のことなど全然知らなかったのですけど、ある日海老名がにやにやしながら、

とおっしゃるのです。また始まったかと思いましたが、例によって一過性のものと思ってほおっておきました。

ところが今回は海老名にとっては今までで一番かわいそうなケースとなってしまうとは……。これについては先ほど出してきた、心理科の同級生でありロールシャッハの共同研究をやったJのことを話さねばなりませんね。この男がなかなかハンサムな男(注7−A
(注7−B)「おのろけもここきわまれり」というくらい聞かされましたねぇ。彼からその「おのろけ」電話がかかってくると、とても長くて、私としても大変疲れましたよ。

今:その“彼女”が み○○○なのですか?

黒:そこまで悲惨な話でもありません。いや、もっと悲惨かも知れないなぁ。話はこのJの下宿のすぐそばに み○○○のアパートがあったというところから始まるのです。そして、海老名が得意になっている時、同じくJから

ときいたら、「なかなかかわいいよ。この頃結構仲良くなったんだよね」。と言うのです。海老名が「仲良くなった」というのとJが言うのでは話の“重み”がまったく違うことは言うまでもないでしょう。海老名の顔がJの話を聞いている最中に脳裏をかすめた私ですが、その先のことは自然の流れに身を任せてみたほうがいいだろうと思ったのです。

今:私も み○○○を知っていますが、非常に愛想の良い子です(注8)。つまり、アガペーが強いのです。まるで、重病患者に対するマザーテレサのように海老名にも優しかったのです。しかし、Jへはアガペーからややエロスが入っていたことも推測できます。

ということですね。

黒:結局この「み○○○事件」は み○○○とJが登下校を一緒にしていることが、Jの彼女にばれ、Jが随分怒られたことで終わりを告げました。さて、このJの一件を知ってしまった海老名はまさに無理矢理お面をかぶっているような無表情を装っていましたが、お面の下ではぼろ泣きをしていたに違いありません。ああ、海老名のエロスは一体どこに…。

今:さて、クリスマスというミッドウェー海戦、そして「み○○○事件」というカダルカナル戦線を越えた海老名は恐るべき試練に立ち向かう事になります。そのことについては次回記すこととしましょう。

黒:ニューギニア、もしくはアッツ島玉砕とも言える海老名の集大成となるでしょう。

今:沖縄も(注9)その後にあるよ〜ん。


【注解】

(注1)「労働1号」……本誌執筆当時(94611日)北朝鮮の核開発疑惑が頂点まで達していて、ちょうどカーター大統領が板門店を越える前だった。そのため、明日にも労働1号という北朝鮮のミサイルが飛んでくる気配だったのだ。それも軍港であり米軍にいまだに占領されている横○○なら可能性もより濃厚だった。

(注2)S青年。……彼もまた、卒論では苦労したらしい。何しろ彼は家政科であって学年30人あまりの中の男一人だったからだ。ゼミの教官からも「そんなテーマはだめだ」とか「やめてしまえ」とかさんざんないじめにあって、黒崎のもとへ良く避難してきたらしい。

(注3)ロールシャッハテスト……いわゆる投影法に属する心理テストの一種。インクのシミが何に見えるかで心理検査を行う。なお、この検査には非常に熟達した力量が必要となるので、果たして学部4年の海老名に使いこなせたかはきわめて疑問。
ちなみに海老名自身のロールシャッハテストの結果も恐ろしいものであったようだ。判定不能だったらしい。

(注4)転移……精神分析における患者が分析医に対し抱く愛情のこと。確か、分析医が患者に抱くのが逆転移だったと思うが、海老名における転移とは「自分ではエロスがあると思って他者を愛そうとする」ことである。精神分析においてはこの転移を解消し、対人感情を修正することが重要だが、海老名においては「勘違いエロス」はいっこうに修正されていない、誰かなんとかしてくれ。

(注5)アイレスタ・クローリー……19Cから20Cにかけて活躍した黒魔術師。「銀の星」という会を作り、黒ミサや黒魔術を行った。また、いろいろな著作も残していて、現在でも図書刊行会で発行しているぞ。

(注6)ノートライ……ラグビー用語らしいが、私(今)は運動きらいなのでよくわかりません。

(注7ーA)(注7ーB)ハンサムな男、J……大学1年の時からGと人気を二分した。が、大学4年の時から彼女と付き合い始め、挙句の果てに1991年の真夏に結婚をしてしまった。現在はK大学の大学院に在学しているが、学生のころから進行しはじめていた「頭部が薄くなる現象」が更に加速しているらしい。

(注8)愛想の良い子……み○○○は愛想の良い子で、いろいろな人に誤解するような態度をとっていたため、勘違いする人も多かった。なお、人の縁とは非常に不思議なもので、なんとこの み○○○、本誌読者のT氏の働く某会社で勤務している。

(注9)沖縄……周知のとおり、沖縄戦のころはもう日本は相当敗戦色が濃くなっていた。そして、この沖縄戦の後はもうピカドンまで大きい戦いもなかった。(ピカドンは戦いではないよな)

海老名の沖縄、それは卒論発表会か、それは14巻目で明らかになるでしょう。


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