巻10 
−海老名の性格、その教育実習ー
 「海老名、大学4年 その@」


Y大学教育学学士(心理学)
今 柊ニ
黒崎 犀彦
共著(原本執筆は、今 柊ニ)1994.4


今回の研究は今までにない展開となった。詳しくは本文を読んでいただければわかるが、私こと今が執筆中(対談中)に急にナゾの腹痛に襲われ、対談がストップしてしまったのである。幸い、当日は黒崎学士が元気だった為、彼が鉛筆をとった。(通常は対談を記録し、清書イラストを入れるのは私である)そのため今回の半分は黒崎学士の執筆となっている(清書は今)。
腹痛の原因は「食いすぎ」との説もあるが、海老名の呪い線も濃い。読者の方々も充分に「呪い」には注意されたし。
「くわばら、くわばら」
今 柊ニ

1章 はじめに
今:一体ここはどこですか。
黒:Sですよ。
今:実に不思議な土地からはじまりましたが、ここはあのヘアプランのあるところなのですねぇ。たまたまあたし(注1)が散髪に行ったらば黒崎学士がいたわけです。それで急遽この研究が再会されたわけですねえ。
黒:因縁の土地とも言えます。すぐ近くにS夫婦(注2)も住んでいますし。
今:おっと、また話がそれている。でははじめましょう。

2章 いよいよ大学4年へ!
今:さていよいよ本研究も10巻目に突入し、おまちかねの大学4年に突入することとなりました。大学4年と言えば1989年で、各人の志向がさまざまに動き始め、勝手な動きを始めたのです。まず、私は大学に全く行かなくなっていました。なぜなら、家で妄想小説に着手し始めていたからです。
黒:当時の今学士はちょっとあぶなかったですね。何しろ『小説家になるから留年する』などとわけのわからないことを言っていましたからねえ。
今:そうです。あの時の私は『おたく度』が頂点を極めていました。あのミ○○○ ツ○○の事件も89年夏で、彼の部屋と私のマンションが酷似していたのを覚えていますよ。


さてさて、大学登校拒否となった私に対し、他の人の目前には就職やさらなる進学(大学院)が迫っていたのです。
黒:その前に我々、教職課程の人間にとっては教育実習という大変なテーマが待ち受けていたのです。
今:そうでした。多くの人々にとって就職活動の前に5月からの教育実習があったのです。……あっ、そうか、あの話ですね。
黒:そうです。あの話です。

3章 さるごりらちんぱんじ〜事件
今:この事件も強烈ですね。私は大学にこの時期行ってないので、教育実習のドタバタを直接見たわけではないのですが、噂ではみんな大変だったと聞いています。
普通の人でも大変なのですから、いわんや海老名をや。
黒:まったくそのとおりです。まず、話題になったのがどこの小学校へ行かされるかということでした。
今:つまり、教育実習の為に付属小学校や各公立小学校へ『下放』されるわけですね(注3)。
黒:はい。噂では付属小学校はきびしいという話でした。付属小はYとKの2つあるのですが、Kの方は帰りも遅くなり、普通の人でもそりゃあもう大変だという話でした。
今:あに海老名はからんや。
黒:また反語ですか。要するに期待に違わず海老名はK行きが決定したのです。


今:で、確かエビナにある海老名の実家からだとKまで通いきれない為に、Kの小学校のうしろに当時まだあったY大の寮に住み込むことになったのでしたねぇ、海老名が。
黒:それこそ知る人ぞ知るオカルト『そ○○○寮』です。


今:確か、明治末期の建築でもともと付属小の校舎でしたが、戦時中は兵舎、そしてその後Y大の寮になったという長い歴史を持つ寮なのですが、いかんせん60年代前後に中核派がいついてしまい、さらに最近は全く建物の補修も行なわれなかったので、我々が大学へ入った時はそ○○○寮はスゴイことになっていました。階段は中央を歩かないと「ボコッ」と足が陥没するし、廊下の屋根にはところどころ穴があいているので冬は廊下に雪が降り積もるという古都Kの情緒にあふれていました。ただ月額の寮費は確か300円というこれまたスゴイ値段でした。夏もスゴク大学2年まではJとWという2人の心理科の輩も住んでいたのですが、確かJが夜部屋に寝ていると大きなゴキブリがバタバタと羽音をたてて飛んでくることが良くあると聞いた時はぞっとしたものです。……

……ちょっとすみません。またまたお腹が急降下………
………………
………………

黒:一体何を食べているんでしょうか。ねぇ、早く行ってきなさい。
………20分経過………
今:………ああ、死にそうだ。
黒:やめますか。
今:今学士死すとも海老名研究は死せず…と言いたいところですが、やはりメロメロです。で、海老名がどうしたんですっけ?

(ここまで来たところでかつてない事が起こった。腹痛に耐えかねた今がガストにてついに力つきるように倒れてしまったのだ。一体海老名研究はそうなるのか?黒崎談)

黒:海老名の教育実習が始まったわけですが、何しろ当時我々がモルモットかペットのように扱っていた海老名です。小学生の子どもたちにとってもあっという間に別な意味でのスーパースターになったのです。
今:ああ、腹が痛い。
黒:もう今学士はほっといて私一人でしゃべらせてもらいます。海老名が入ったのは6年生のクラスで、そこでは我々が予期した通りの事が起こったのです。そう、海老名よりデカイ小学生(女の子も含む)が4〜5人もいたのです。つまりそれだけでも教師としての威厳を保てなかったことがわかります。更に、女の子からは「先生、彼女いないんでしょ?だってかっこ悪いんだもん。」などと言われ、人間としての威厳すらも音をたててぶちこわされたのです。そして、極めつけはこの事件でした。それは子どもたちが海老名の歌と称して作ってしまったというのです。実に下らない単純な歌ですが、それはまた、私達の爆笑のネタともなったのです。
その歌とは、


というものでした。
今:(小さい声で)海老名は人間ではありませんから人間としての尊厳があるわけではありません。しかし、宇宙人としての尊厳も人間より下等なさる・ごりら・ちんぱんじーと言われた日にはあなたもうダメでしょう。

黒:無理しないで下さい。今学士、私が勝手に続けてますから。このように、子どもたちにとってアイドルと化した海老名は自分がピエロまたは猿まわしの猿よろしく扱われているのをどう思っていたのか、半ば自虐的にそれをギャグとして我々に語ったのでした。そうこうするうちに教育実習もついに最後の研究授業となったわけですが何しろ研究授業というのは最大の山場で、その授業風景を大勢の先生方に見られながら行なうものですから、その前夜の準備、および緊張感たるやただごとではありません。いわんや海老名をや。


今:…(小さな声で)また反語ですか。ともかく、その研究授業がスゴイという情報は大学を撤退しつつあった私の耳にも入ってきて、それで一つ取材に行こうじゃないかということで、私がビデオカメラを片手に、黒崎学士、寮の水先案内人であるJの3人で研究授業の前夜の そ○○○寮に押しかけたのです。

4章 恐怖の前夜祭
黒:これは、今もって忘れる事の出来ない非常に愉快なひとときでした。夜もふけた11時過ぎに、いきなり 
そ○○○寮の海老名の部屋を訪問したのです。案の定、海老名は苦しそうな顔をして、研究授業の準備をしていたのですが、我々の顔を見るや否や、非常に嫌そうな顔をしたのです。まるで、看守に呼び出された時の死刑囚のような顔だったと思います。我々は更に、海老名に引導を渡すため「おごってやるから、何か食べに行こうぜ」と言って、海老名を半ば無理矢理外へ連れ出したのでした。この頃の海老名は既にある程度社会化が進んで来ていたので、以前のように怒る事もありませんでした。海老名の成長に陰ながら涙を流していたのは他でもない私だったのです。

今:(あいかわらず小声で)しかし、社会化が進む海老名に対し、我々世間は冷たいものなんですね。海老名を記録したビデオムービーには海老名の寮での生態がおさめられていますが、その画面には海老名が写ると共に「小僧登場」とかさるごりらちんぱんじー」とかのスーパーインポーズがしくまれていたのを彼は知りませんスムニダ。あっ、実は我々の方がガキっぽいのかなぁ?
黒:話が少し元に戻りますが、
そ○○○寮のうす暗い感じのする部屋で、何かを一生懸命書いている海老名はどこかの地下活動家を彷彿とさせるものがありました。
あ!…地下…また思い出しました。まさか、海老名はあの時地底人への報告書をまとめていたのでは……
今:俺は宇宙人の報告書だと思うがなぁ。まあいいでしょう。ともかく海老名を威嚇して外へ連れ出しファミレで飯を食って帰ってきて更に そ○○○寮の見学を行い、我々が寮をあとにしたのはなんとAM1:30でした。我々の当初の目的の一つである『海老名の研究授業に対する妨害』作戦はかくして完了したのですが、実際の研究授業は一体どうだったのですか?
黒:研究授業は何とか無難に乗り越えられたらしいのですが、眠くてしようがなかったと何度もぼやいてましたよ。
今:しかしまあ、やりとげただけでもエライよなあ。
黒:今学士、いくら体調が悪いからといって、海老名を誉めるとは何事ですか?体調ばかりか、頭も悪くなってきたのですか?
今:はっ!すみません。ついうっかりしていました。ところで、黒崎学士の実習はどうだったのですか?
黒:私は教師を教師をやるまいとつくづく感じたものです…(黙る)
今:はあ。あっ私は学術専攻のコースの為に教育実習すらなかったのですが、教育実習の話を最初に聞いた時、「時給はいくらだ?」と教官に尋ねてあきれられたことがありましたよ。
黒:(呆然として)はあ。

5章 海老名のかんちがい恋愛のゆくえ
今:海老名の妄想恋愛については以前に詳しく論及しましたが、4年になったとき、何か進展はありましたか?
黒:ありました。しかし、その時期は4年の最初ではなく、もっとあとの時期です。
今:ということは4年の最初は妄想と教育実習で彼は頭が一杯だったのですね。
黒:そうでしょう。
今:何しろ、頭脳の記憶領域が2DDフロッピー程度しかありませんから、一旦教育実習で頭が一杯になると恋愛に頭をまわせないのでしょう。

黒:私の研究では、海老名の思考回路の特色として、恋愛という情報が正しく脳に送られず、途中に巨大なブースターがあると確信しています。
今:そのブースターはブラックボックスとしての役割もあると思いますよ。
黒:ところで今学士、腹は治ったのですか?
今:いや、まだだめです。次回は復活して『就職活動勃発す』を力筆したいものです。


【注解】

(注1)……自分の事を「あたし」というところに海老名の「呪い」が進行しているのがわかる。「呪い」は次回にも続くのであった。

(注2)S夫婦……つまりS青年は結婚して、現在はSの徒歩25分の立派な中古アパートに住んでいる。奥さんはO(海外)で見つけてきたらしいが、最近S氏は公立小の教師をやめたらしい。一体どうなるのだろうか?

(注3)……「下放」とは文化革命の時、中国ではインテリ青年が農村などの理解の為に無理矢理田舎に行かせられ、労働をさせられたことを示す。

(注4)……その後の研究によると、この「さる・ごりら・ちんぱんじー」が首都圏ではかなり汎用性の高い「からかい文句」であることが判明した。


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