金剛山観光に行くには


金剛山観光は現在、一年間に30万人を超える旅行者を集める一大観光地です。
しかしそのほとんど全てが韓国人で、外国人の参加は非常に少ないです。
北朝鮮にある金剛山に、毎年30万人以上の観光客を集めている事実は脅威ですが、
外国人の参加者がきわめて少ない事実もあってか、その知名度は思ったほど高くありません。
事実、皆さんが金剛山へ行こうと希望しても、なかなか辿り着けない場所なのです(笑)。
そこでまず皆さんに、金剛山への道のりを紹介したいと思います。

(2006・9・4 完成)




 金剛山へ行くには、現在大きく二つのルートがあります。ピョンヤン経由の北朝鮮ルートと、韓国から入国する韓国ルートです。金剛山は北朝鮮領内にあるので、本当ならば北朝鮮ルートで行くのが常識なのですが、奇矯なる北朝鮮という国らしく、現在、ピョンヤン経由で金剛山へ行くのは非常に困難です。(注1)金剛山では韓国の財閥、現代グループが1998年11月以降、金剛山観光事業を展開しており、韓国側から観光に行くのがメインルートになっているのです。
 さて、そんな金剛山へ行くにはどうすればよいか?まず気をつけなければならないのが予約です!どんなに遅くとも金剛山に行く10日前には、観光の申し込みはおろか、必要書類を観光の元締めである現代峨山という会社まで届けなければならないのです。金剛山観光は、基本的に観光会社を通して金剛山観光の募集を行っています。つまり10日前に書類が整ったとしても間に合わないのです。
 金剛山に行くには、どんなに遅くとも二週間前くらいには旅行の準備を完了しておく必要があることがわかると思います。長期に韓国旅行をする人でなければ、旅先の韓国で申し込んでそのまま金剛山へ行くのは無理です。また、日本国内で金剛山観光を扱っている会社はごく限られている上に、韓国の旅行会社よりも予約の確実性に欠けます。実際に上手く予約を取れず、数ヶ月経っても金剛山へ行けなかった話も聞いたことがあります。金剛山を国際的な観光地としたいと現代峨山担当者は意気込んでいますが、現状は韓国人以外が旅行をすること自体あまり考慮されておらず、金剛山は極めて『内向きの観光地』なのです。
 金剛山に行くのには韓国の友人を頼るか、または韓国の旅行会社に韓国語ないし英語でやり取りをしながら金剛山旅行の申し込みをするのが良いです。実際私も多くの場合そうやって金剛山に行っています。韓国に友人がいない、そして英語も韓国語も自信がない……そういう方一回韓国に行って旅行会社で申し込みをして、改めて金剛山観光に行くという手も使えると思います。大手の韓国の旅行会社ならば金剛山観光は扱っていますし、旅行会社の窓口で予約するのは、顔が見えない電話やメールよりも遥かに楽なはずです。
 最近、現代峨山に直接金剛山観光の予約が可能になったようです。そして2006年9月末からは二週間に一回程度、外国人専用の英語ツアーも始まるようですから、外国人が大変行きにくい金剛山観光に今後変化があることを期待したいと思います。
 韓国旅行は日本人が自由旅行をするのに一番技術が要らない国のひとつですが、金剛山旅行の申し込みに関して言えば、少々入国に手間がかかる国への旅行並みの腕力が必要なのです。

 ところで金剛山観光の必要書類とは、必要事項を書いた申し込み用紙、写真二枚、パスポートのコピーといったもので、一般的なビザ取得に必要な書類と似ていると思ってもらえれば良いです。申し込みの手続き自体は、旅行代金の銀行振り込み以外に苦労する点は少ないと思います。

 さて、旅行申し込みに際してもう一つ気をつけなければならない点は、予約が取れるかどうかです(笑)。かつての日本植民地時代、金剛山は朝鮮半島一の観光地と言われていました。特に秋の紅葉の素晴らしさは特筆されており、当時から紅葉時の金剛山は観光客でごったがえしていたそうです。紅葉時の金剛山の人気は変わっていません!多くの観光客が殺到し、予約は非常に取りにくいです。その他夏休みシーズンや年末年始など、観光客が殺到するシーズンがあります。当たり前のことなのですが旅行者が殺到する時期の旅行を希望する場合、早め早めの予約が肝心です!
 観光客が少ない年末年始を除いた冬季などは比較的予約は取りやすいです。が、気をつけなければならないことがあります。韓国から北朝鮮に直接行くことができる金剛山は単なる観光地ではないのです。韓国と北朝鮮の融和の象徴とされており、『統一一番地』というニックネームが付けられているくらいです。そのため南北で別れ別れになった離散家族の再開事業など、韓国と北朝鮮の合同イベントが行われたり、また『統一教育』という名目で、教師や生徒などの大団体が研修目的で金剛山を訪れるなどといったこともあります。そんなイベント事にぶつかってしまうと当然予約は取りにくくなってしまいます。まあ、これは重要な国際会議が開催されるとその都市のホテル予約が取れなくなる……といったアクシデントと同じです。
 また、当然のことながら金剛山観光は北朝鮮情勢の影響をもろに被ります。例えば2006年7月のミサイル騒動の後、金剛山観光客は大きく減少しました。主に北朝鮮側の都合でこれまで金剛山観光は3回、中断されたこともあります。北朝鮮情勢の推移によっては突然観光が中止となることもあると思っておいた方が良いです。

 大切なことを忘れていました。料金です。金剛山旅行の料金ですが、これは旅行期間・宿泊場所そして旅行時期で決められています。金剛山観光には、日帰り、一泊二日、二泊三日の三種類があります。二泊三日の旅行が一番高いのは当然です。
 宿泊場所は現在、ホテル、ペンション形式の宿泊施設、そしてほぼ団体専用の大部屋形式の宿泊施設の三種類があります。もちろん団体で大部屋形式の場所に泊まるのが最も安いのですが、まず私たち日本人は十中八九、一番高いホテル宿泊を勧められます(笑)。もっとも1人2人といった少人数ならば大部屋での宿泊は却って高くつくのも事実です。もちろんホテルではその部屋のグレードによって料金は全く違います。

金剛山ファミリービーチホテルのVIPルーム。金剛山のホテルにはこんな豪華なお部屋もあります。

 旅行時期で値段が違うのは、前に説明した季節ごとの集客力の違いを考えるとやむを得ないところです。一番安い冬季から紅葉時などのトップシーズンまで、金剛山観光の料金は全部で四期間に区分されています。具体的な料金としてはどうでしょうか……最近ウォン高傾向が続いていますので、二泊三日で5万円前後といったところでしょうか。


 予約が取れたらまず金剛山への道の八割は到達できたといっても過言ではありません。しかし金剛山旅行の出発地については少々注意が必要になります。
 金剛山旅行参加者は韓国東海岸高城郡にある『花津浦峨山休憩所』に集合することになっています。ここは花津浦という湖のほど近くにある金剛山観光客用の施設で、2006年7月にオープンしました。ここで金剛山旅行の手続きを行い、日本人などの外国人はパスポートを提示して、観光客が必携の観光証、金剛山へ向かうバスのチケット、そして観光カードを受け取ることになります。
 観光カードはウォンの現金をチャージできるようになっていて、その手続きは花津浦峨山休憩所で出来るようになっています。カードは金剛山での買い物で利用できるわけです。また金剛山内でバスに乗るとき、運転席脇の機械にカードをかざしてチェックを受けるようになっています。観光証は身分証明にあたる書類ですので、観光中によごしたり無くしたりしないようにとの注意を受けることになります。ご注意ください!
 さて、花津浦峨山休憩所まではどうやって行けばよいのか?これは自力で行くかソウルからのシャトルバスに乗るかになります。自力の場合は、とにかく束草という韓国東海岸最北の市まで行くことです。束草は韓国国内有数の観光地ですので、大きな都市からは高速バスが運行されています。束草まで行ったら1番の市内バスに乗って花津浦に行きたいとバスの運転手に告げれば、花津浦のバス停近くに花津浦峨山休憩所が建っているのが見えるはずです。
 ソウルから行く場合はシャトルバスが便利です。ソウル中心街の桂洞にある現代ビル近くとやはり中心街の光化門を経由するバスと、江南の現代百貨店とチャムシルにある野球場前を経由するシャトルバスがあります。注意が必要なのはこのシャトルバスも予約が必要なことです。


花津浦峨山休憩所です。かなり立派な建物で、売店や食堂も完備しています。


 ところで花津浦峨山休憩所へのシャトルバスは、二泊三日以外の日帰り、一泊二日の旅行の場合、利用が事実上できないのです。それは花津浦峨山休憩所金剛山コンドミニアムの集合時間がなんと午前6時という早朝だからです。日帰り・一泊二日の金剛山旅行の場合、公共交通機関で花津浦峨山休憩所まで行くのは不可能に近く、タクシーか車で行くかでもしない限り花津浦峨山休憩所かその近くに泊まることを余儀なくされます(注2)
 花津浦峨山休憩所での手続きでもう一つ忘れてはならないことがあります。北朝鮮へ持ち込むことのできない物品の預かりです。携帯電話や規定を超えたカメラ、さらには北朝鮮について書かれた本などが持ち込めず、預ける形となります。

 花津浦峨山休憩所で手続きが終了したら、本当の金剛山観光の出発地である『東海線道路南北出入事務所』に向かいます。実にややっこしい名前ですが、これは事実上韓国側出入国管理事務所です。ただ、韓国は北朝鮮のことを、そして北朝鮮は韓国のことを『国家』として認めていないために出入国管理事務所と言わないのです。そして現在、韓国と北朝鮮間には道路だけでなく鉄道の建設も進められており、隣には立派な駅舎の建設も進んでいます。きっと鉄道の出入事務所は別に設けられることになると思います。
 『東海線道路南北出入事務所』は実に立派な施設で、びっくりすると思います。よくわからないのですが中には卓球場までありました。当面南北統一はないと韓国政府は考えたのかも知れませんが、もし南北が統一されたらこの施設、いったいどうするのでしょう??
 花津浦峨山休憩所から東海線道路南北出入事務所まではソウルからのシャトルバスが乗せていってくれます。また、自力で花津浦峨山休憩所まで行った人は料金1500ウォンのシャトルバスが運行されますので、それに乗ればよいです。

 東海線道路南北出入事務所で韓国出国手続きをします。パスポートにはしっかり出国印が捺されますので、外国人にとっては韓国出国手続きと何ら変わりがありません。手続き終了後、出口には金剛山行きのバスがあなたを待っているはずです。さあ、これから軍事境界線を越えて金剛山へ向かうのです。

東海線道路南北出入事務所の北側出口、ここを出ると金剛山行きのバスが待っている。


 金剛山へ向かうバスに乗れば一安心……と言いたいところですが、いくら観光地とはいえ金剛山は北朝鮮です。わけのわからない規制やら何やらがたくさんありますので気をつける必要があります。ここでかつて私が貰った『金剛山観光の諸注意』を紹介します。


携帯禁止品目
1.10倍以上の双眼鏡及び望遠鏡、160ミリ以上のレンズがついているカメラ、24倍以上(オプティカル基準)のズームレンズがついているビデオカメラ
2・個人の治療目的以外の薬品、商標や説明書が無く、その成分と用途が分からない薬品および商品
3.印刷物や絵画、文字版、録画テープ
4.偽造紙幣または大韓民国紙幣、日本国紙幣
5.医療目的以外の毒薬、麻薬その他の有毒性科学物質
6.武器、銃弾、爆発物、軍用品、凶器、放射性物質、引火物質
7.無電機とその付属品
8.伝染病が発生した地域の品物
9.その他、物品の性質や数量において、観光目的に適合しないとみなされる物品

観光時の遵守事項
※禁止事項
1.軍事施設、長箭港・高城港エリア、バス乗車区間、軍人や住民、コース内の環境保護巡察員の写真撮影またはビデオの撮影
2.煙草の吸い殻、塵紙、空き瓶、空き缶、食べかす、ビニール袋などの投棄
3.定められた場所以外での喫煙
4.化粧室以外での用便
5.自然風景、石彫刻、標識、歴史遺跡遺物、天然記念物、埠頭施設、道路施設、観光施設、観光奉祀施設等の毀損及び損傷
6.植物の採取、石や土を持ちかえるなどの行為、有用な動物の捕獲
7.自然環境/風致、観光施設及び観光対象物の毀損及び汚染(岩、木などへの落書きは厳禁)
8.携帯禁止品目を欺いて搬入するなどの行為
9.出入国管理事務所及び税関、通関時の故意的な業務妨害
10.山火事には要注意

違反時の制裁内容
観光時に“携帯禁止品目”を携帯したり、観光中に“観光時遵守事項”を守らなかった場合には、下記のような環境補填帆費が課せられます。十分にご注意下さい。
1.軍事施設、長箭港、バス乗車区間、軍人や住民及び環境保護巡察員など撮影禁止区域やその対象を撮影した場合、最大50ドルの罰金(FILM押収もしくは該当部分の削除など)
2..煙草の吸い殻、塵紙、空き瓶、空き缶、食べかす、ビニール袋などを所定の場所以外に捨てた場合、また、観光地で唾を吐くなどの行為をした場合、程度により最大で15ドルの罰金
3.指定された場所以外で喫煙した場合、程度により最大で15ドルの罰金
4.化粧室以外の場所で用便をした場合、最大で10ドルの罰金
5.自然風景、石彫刻、標識、歴史遺跡遺物、天然記念物、埠頭施設、道路施設、観光施設等を毀損・損傷させた場合、最大50ドルの罰金
6.植物の採取や有用な動物の捕獲、石や土を持ち帰るなどの行為をした場合、程度により最大25ドルの罰金
7.携帯禁止品目を欺いて搬入した場合、最大100ドルの罰金
8.船、荷物、動植物の検査・検疫ならびに観光客の出入国審査の際に、故意に業務を妨害したり、スムーズな業務推進に支障を与えた場合、程度により10ドルの罰金

※上記の留意事項以外にも、次頁の“指摘事例”にあるような行為などは、不必要に北朝鮮の方を刺激し、誤解を招く恐れがありますので、そのような言行は慎んで頂きますよう、お願いいたします。

指摘事例(ご参照ください)
1.北朝鮮の体制批判や、彼らの自尊心を刺激するなどの行為
ー“北朝鮮は遅れている”、“あなたはかわいそうだ”などの言葉
ー北朝鮮体制に関する政治的用語や表現
2.外国の新聞や雑誌、書籍を持ち込む行為
ー外国の全ての刊行物は、観光船に置いて下船するようお願いします。
3.岩や絶壁に刻まれている北朝鮮の宣伝文句を指差したり、批判する行為
4.北朝鮮指導者または高官の名前をむやみに呼んだり、公然に批判する行為
5.北朝鮮から、工作員に誤解される言動
ー“北朝鮮から韓国に帰順した人々は、よく暮している”などの言葉
6.石碑を踏む、登るなどの行為(写真撮影も厳禁)
7.観光行程以外での写真撮影
ー囲いを倒したり、登山路上や歩道をはずれて写真撮影をするなどの行為
8.小型ラジカセやラジオを携帯し、放送を聴取したりする行為
9.登山中や頂上で叫ぶときに、北朝鮮を刺激するような言葉を使用する行為
11.北朝鮮の住民または環境巡察保護員に、新聞をあげたり飲食物を提供する行為
ー環境巡察保護員に新聞を薦めた。
→これは、自尊心を傷付けただけでなく、その人をからかったという理由で指摘
ー女性の環境巡察保護員にライターをお土産としてあげた。
→これは、公務執行を妨害しただけでなく、その人をからかったという理由で指摘
ーバスで移動中、子供たちに飲食物を贈呈することも、指摘事項として挙げられています。
12.日章旗及び星条旗がプリントされた衣服の着用は禁止

北朝鮮エリアでの制約は多いですが、上記事項さえお守りいただければ、過度な心配は不用です。
隣町に出かける、という程度の軽い気持ちで、観光を楽しまれてください。
ただ、隣町に行けば、そこの風習を尊重し、それを守らなければならないということ、その気持ちを忘れることなく、金剛山へお出かけください。

 真面目に読んだら金剛山へ行く気も萎えてきます(笑)。でも、心配ばかりしていても仕方ありません。さあ、バスはきれいな舗装道路を進んでいることでしょう。やがてカーキ色の軍服を着た兵士の姿が見えてきます。北朝鮮に足を踏み入れたのです!



(注1)北朝鮮側からの金剛山観光客については、今でもわずかながらいるようです。現代グループの観光開発が行われていない内金剛へ観光に行く場合もありますが、外金剛側も北朝鮮側から金剛山に入り、金剛山ホテルに泊まっていく観光客がわずかながらいるということです。万景峰号での在日朝鮮人の祖国訪問の際、元山到着直後か帰国直前に日帰りで外金剛へ行くことができるという話もありますし、また、外金剛には金剛山招待所という金剛山一の高級宿泊施設もあるというので、全く北朝鮮側からの金剛山観光が不可能というわけでもなさそうです。

(注2)もともと金剛山への出発地である高城郡は、「金剛山観光客はただ通過してゴミを捨てていくだけで、全く恩恵がない!」との不満を強く持っており、早朝出発が必要で高城郡に宿泊しなければ参加が難しい日帰りと一泊二日の観光日程は、どうやら高城郡をなだめるために組まれたようだ。




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