篠田さんアトリエ訪問記:ふとまき編
鉛筆と消しゴム・・・・・?篠田さんの絵を穴があくほど見つめても、遠くから眺めても・・・・・。どう考えて、想像しても鉛筆と消しゴムによって描かれているとは思えなかった。あの水分、栄養分の流れすら見えてくるような葉脈やおしべがどうやったら生まれてくるのだろうか。黒く塗った鉛筆を消ゴムで消していく??えっ??
そんな私たちは初めてお会いした時に篠田さんに「どのように書いているのか見せて欲しい。」とねだった。「狭いところでねえ。人を通すなんて・・・。いつか機会があれば・・・。」というようなことを言われた。『そうだよなー。ずーずーしいよなー。』という思いと、『企業秘密なのかもしれないな。』という気持ちで多分見る事はないだろうな、とあきらめた。
ある日篠田さんから仕事場を見ますか?といった電話があった。
篠田さん作品:闇の産卵(360×290mm)
人間というものは、自分の経験した範囲の中でしか物を考えたり感じたり出来ないようだ。今回篠田さんのお宅で仕事場を見て、改めてそう感じた。と、いうのはあんな絵を描くのだから、鉛筆や消しゴムと言っても特別な仕掛けがあるのではないか。と思っていたのだった。特別な仕掛け・・・。まあ仕掛けというのか鉛筆も消しゴムも先が長く、針より尖っているというくらいで、私の思ったような秘密の仕掛けはなかった。先を尖らせるのはサンドペーパーであり、ふとまきにあのように鉛筆や消しゴムを削れるかと聞かれればそれは出来ないだろうが『うーん。本当にただの鉛筆に消しゴムだよなあ。』と思った。(このあたりはのりまきの紹介へ)
製作中の作品を見せてもらった。一点一点は肉眼ではわからない。そんな点が無数に集まって作品となっていく。家事をしながらの篠田さんの1日の仕事量は約1平方センチメートル。約8時間をかけ、1cm×1cmの間を見つめ描いていく。「以前は黒く塗りつぶしたあとから消すという作業のみで絵を描いてというより消していったのですが、最近は書き加えるということもしています。」どんな作品になるのだろうか。
鉛筆・消しゴム画ということが、どうもピンとこなかったふとまきも『闇の産卵』や『孕む手』 などを目の前にすると、全身に鳥肌が立った。そうか今までどくだみの小さな絵を展覧会で見ただけで他の絵は本や葉書、コピーだったんだ。繊細さや描写の様子は伝わったがこの肌合いは感じられなかった。すごい。『孕む手』は670mm×540mmと大きく、真っ黒に塗りつぶした部分も鉛筆にしかない光沢が感じられる。消しゴムで消えてしまうのはもちろん爪などがあったったら傷がついてしまう。描写も繊細なら作品も繊細だ。
篠田さん作品:「疑態(C)」鉛筆・水彩 26.0×41.0cm
人は、何かをする時見返りは期待しないのだろうか。仕事をする時、仕事を選ぶ時、自分の能力を自分で計算して自分なりに納得のいく給料をもらえるところを選ぶ。そして、自分が“20万円/月に貰って当然”と思うところで18万円/月しかもらえないと、自分の能力をばかにして・・・。などと思いはしないだろうか。そして、20万円くれるところを探し、見つからなければ自分のしたい仕事でなくてもお金を一定の額貰う為に仕方なく働くのではないだろうか。私にもそんな打算はある。
篠田さんの話によると篠田さんは月に5万円の給料をもらっているという計算(注)だそうだ。驚いた。現在の篠田さんの絵が1日8時間位机に向かって描く範囲が1cm×1cm。2002年の秋には個展があるそうだが、「それに間に合わせないと」。と言っている。1枚の絵に一年以上かけるのだ。
(個展の開催は2002年秋よりも、もう少し先になるそうです。2002・9・11)
「個展をたくさんすれば名は広まるかもしれない。でも、こういうように仕上げるから時間がかかってね。」と。
再来年といえば私たちにとっては先が長く待ち遠しく年に一度位は直接観たいと思うのだが・・・。
作品が間に合わない。
「世間では60歳が定年でしょう。僕もあと7年。会社勤めをしている人たちが今も働き盛りなわけで、その働き盛りのうちに、心身の衰退がまだ少ないうちに、大げさなようですが今のうちに最後の仕事をしておきたい。定年後にいかにわがままな仕事をしようとしても、心身はそれについていけないのではないでしょうか」。
篠田さんの言う“今のうちの最後の仕事”の一つが、現在作成中の作品になるのだろう。完成まで2年余り・・・。どのような作品を目にすることになるのだろう。年に一度は見たいと書きつつ、時間がかかっても“究極の篠田さんの絵”を見たいと思う。
注……篠田さんによれば、額装代を引けば月額5万円よりさらに小額になる計算だという。
出会い
「僕のどくだみを買ってくれたという人から、自分で編集をしたという本とお礼状が届いたんだ。」
と、お礼状を見せて頂く。作品を観たのは 『行商美術』といって何人かの画家さんの絵を全国に持ってまわるいわゆる行商販売らしい。
(行商美術の紹介は下にあります)
篠田さんのどくだみを観て、その時は買わずに家に帰るも、夢に出てきて次の会場である名古屋に和歌山県から買いに行ったとの事。
生まれて初めて絵を買いました。といった内容だった。のりまきは昆虫とかも大好きでその辻さんの編集したという本を食い入るように見ている。
篠田さんの個展で辻さんにもお会いできそうだ。
上の写真は“行商美術”のダイレクトメールから。行商美術とは、篠田さんや秋山祐徳太子氏ら24名の“芸術作品”を、文字通り全国各地を廻りながら販売する試みのようだ。最後に行商美術の素敵な口上を紹介したい。
〜口上〜
「行商美術」という呼称は本来美の徘徊をめざすブリキ男爵秋山祐徳太子氏による自作品群への命名で、我々としてはこのお品書きを素直に受け止め、行商なるアナアキイに美術なる醜名をつけ全国巡業を思い立ったわけであります。わが先人達のためしに習い、いまや日本風景の残像となりつつある地名を手引きとし藪から棒に始めます。とはいえその字の示すごとく、大雨、炎天、風雪をものともせず商店、旅館、寺社、温泉、離島…すべてよし、津々浦々で展示即売することとします。
篠田教夫さんのページ・トップへ戻る
のりまき・ふとまきのホームページ・ホームへ戻る