徹底した写実の果てに 
醸される幻想の世界

(お絵描きさんの夢世界:篠田教夫さんU)

篠田さんの“鉛筆”
針よりも細い先端に注目

                                               


のりまき・ふとまきは先日、鉛筆画家篠田教夫さんのご招待を受けて、篠田さんの自宅兼アトリエに行ってきました。


鉛筆画家篠田さんの生命線、鉛筆です。錐のごとく先のとがった鉛筆……一見歯医者さんの道具置き場のようです(笑)“細かい手仕事”などというありふれた紹介が、恥ずかしくなってしまう迫力を感じます。


あらかじめ下絵を描き、それを9Bのやわらかい鉛筆で丹念に塗り込める。その時点で絵は一度、漆黒の闇にうずもれる。それから9Bの闇を消しゴムですこしづつすこしづつ晴らしていく……それからこれ以上はないくらい先の尖った鉛筆で、丹念に仕上げを進める……
鉛筆・消しゴムは絶えず紙やすりで先を磨かれています。紙やすり上の鉛筆・消しゴムの細かい削りくずが、作業の繊細さを物語っています。


篠田さんは、絵ばかりではなく、額縁や額装のすみずみまで自作をします。写真は自作の額(!)。市販の材木をのこぎりで切って、丹念な塗装を繰り返し、作っていくとのことです。作品によっては額縁に絵を描くこともあるそうです。額の種類によっては枠の内側にマットを作成します。厚紙を絵のサイズに合わせて45度の角度で切り抜き、その上に丁寧に布や和紙を貼り合わせて額を完成させていくのです(下図参照)。

ふとまき作図

つまり篠田さんの作品は絵そのものだけでなく、額までも全て含めての“作品”なのです。


おりしも篠田さんは新作の作成中。コタツ板くらいの大きさの作品制作に取り掛かったのが今年(2000年)1月。『対象を徹底的に描き込む』篠田さんの作業の結果、ようやく作品の全体像が見えてきたようです。

『徹底して写実的に描写していった果てに醸されるであろう幻想の世界』が、新作のねらいだそうです。文字通り『写実』の極限を究めた先に、篠田さん独自の世界が広がっているような作品になりそうです!!
“鉛筆での塗りつぶし”作業の際、絵の外枠までしっかりと塗り込めていきます。そして鉛筆が枠からはみ出た部分を、はみ出た部分を消しゴムで消したり、後から白い色を塗るなどといった作業は、一切行なわないそうです。あくまで枠どおりきっちりと黒く塗り込めていく作業を追求するという篠田さんは、『はみ出た部分を消しゴムで消したり、あとから外枠を白く塗り込めると、消しても鉛筆の筆圧の痕が残ったり、白く塗りつぶした部分が目立ったりして、外枠の部分が汚くなってしまう。だからあくまで枠どおり均一に黒く塗りつぶす』。といいます。考えただけで気が遠くなりそうな作業をする理由を篠田さんは、『絵の縁が筆跡や手あかなどで汚れていると、苦労の痕跡を画面に残してしまい、絵を観る人はそのことに気を奪われて肝心の絵の鑑賞に差し障りが出てしまう。また、筆跡を残さずに繊細な絵を描いたとしても、四隅が汚く粗雑では、せっかくの絵が台無しになってしまう』と、説明します。
また、対象を穴があくほど凝視して、それを一センチ四方を完成させるのにも数日を要するほど執拗に紙の上に再現していく……考えるだけで気が遠くなっていく作業の連続が、コタツ板サイズの作品に凝縮されていきます。
まさにそういった『描く』作業を通じて、自己を徹底的に見直し、考えていく篠田さんの姿がそのまま投影された作品が出来あがっていくのでしょう。


篠田さんの絵の端部を大写ししてみました。枠どおりにきっちり塗りこめ、はみ出し一つ無い完璧な作業。黒地に浮かび上がる雲の繊細な味わい。そして厚紙を切り、その上に布を貼り合わせて作り上げた、篠田さんお手製のマットの風合いを感じ取っていただけると思います。(2001・1.23追記)



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